現代時評《ようやくのアイヌ新法》片山通夫

19日の時事通信が次のように伝えた。

アイヌ民族の誇りを尊重し、必要な支援策を盛り込んだ新法が19日の参院本会議で与党などの賛成多数で可決、成立した。法律上初めてアイヌを「先住民族」と明記。産業・観光振興などに使える交付金を創設すると定めた。公布後1カ月以内に施行される。  http://u0u1.net/WdQF  

 アイヌ民族には長い歴史がある。

アイヌ民族はいわゆる北方少数民族とされる。江戸時代にさかのぼれば、当時の樺太アイヌに突き当たる。彼らはアムール川の河口あたりのも出没したようだ。そして蝦夷地、現在の北海道にも住んでいた。北海道の一部は松前藩が治めていた。その頃の日本はいわゆる鎖国でわずかに長崎の出島でオランダ、中国(明朝と清朝)との間の通商関係に限定されていた。また朝鮮王朝及び琉球王国との「外交に限られていた。

 しかしながら、松前藩はアイヌ民族との交易にいそしんでいた事実がある。松前藩はアイヌ民族を使役し略奪したが、交易も行っていた。アイヌ民族は樺太と通じて中国との交易に参加していた。山丹交易である。山丹人とは樺太の対岸に住む人々を指した。その山丹人たちは中国(明や清朝)との交易をおこなっていた。実際は中国がアムール河口あたりまで朝貢を強いていたからであろう。ただ中国の朝貢は緩やかなものだった。

 それでも山丹人は中国の都まで時には赴いた。その時中国は様々なお土産を山丹人に贈呈した。その一部が蝦夷錦(山丹服)と言われる錦織の豪華な着物である。アイヌ人がこれを着ていた絵などが残っている。

 このようにアイヌ民族は「自由に」北の大地や樺太、時にはアムールの河口まで出かけていた時代があった。彼らは狩猟民族なのである。

 しかし明治になってアイヌ民族を日本人化させることになって、政府は勧農政策を実施し、1899年に制定された「北海道旧土人保護法」で土地の無償下付や農具の給付など優遇制度を実施したが、既に日本の開拓民たちがいい土地(この土地ももともとはアイヌのもの)を取得してしまったあとで与えられた土地が農業に適してなかったりしてアイヌの人々の生活改善には効果がなかった。

北海道旧土人保護法はアイヌ民族を次のように縛った。

アイヌの土地の没収、収入源である漁業・狩猟の禁止、アイヌ固有の習慣風習の禁止、日本語使用の義務、日本風氏名への改名による戸籍への編入などである。つまりアイヌ民族固有の文化・風習などの否定だった。

 ちなみにこの北海道旧土人保護法は、驚くなかれ、1997年(平成9年)7月1日、アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律(1997年(平成9年)法律第52号、アイヌ文化振興法)は国会で全会一致で可決成立したことにより廃止された。

 そして今日、アイヌ民族の誇りを尊重し、必要な支援策を盛り込んだ新法が19日の参院本会議で与党などの賛成多数で可決、成立したわけである。

 我々の長い歴史の中で、アイヌ民族がようやくその民族の誇りを尊重される時代になった。そして彼らが我々とともに住むこの土地の先住民であることを認めなければならない。

 これを機会に我々の住むこの国は多民族国家であることも同時に認識したい。

 

 

現代時評《WTO逆転敗訴に逆切れする官邸》片山通夫

 「逆切れする官邸」まさにこの表現がぴったりだと言える。WTOの上級委員会が過日「韓国による福島県など8県産の水産物輸入規制措置」を容認する判決が下だした

 そもそもWTOに韓国が8県産の水産物輸入規制措置を行っているのは不当な行為だと訴えを起こしたのは我が国政府である。それだけに勝算があったはずである。

 しかしあえなく敗訴が確定した。現場の8県は大きな痛手を被った。こんな訴えを起こさなかったら韓国との2国間交渉で話をつけることもできた。しかし、WTOという国際機関に舞台を移したがために、この敗訴の決定は世界中に知れ渡ることになった。安倍政権の完敗、つまり読み違いである。

 それでも「菅義偉官房長官は12日閣議後の会見で、韓国による福島などの水産物輸入禁止措置をめぐる世界貿易機関(WTO)紛争処理の最終審について「(日本の)敗訴との指摘は当たらない」と述べた。その上で、韓国に対し、科学的根拠に基づき禁輸措置全体を撤廃するよう二国間協議を通じて求めていく考えを示した」とロイターは伝えた。

 一向に現実を認めようとしない政府だ。

 安倍首相は「オリンピックを招致するとき、原発はアンダーコントロールされている」と世界を相手に公言した。しかしながらその対策は恐ろしくいい加減だった。

 汚染水は増え続けてゆく一方だが、業を煮やしたのか「汚染水は希釈して海に流す」などと言い出した。これには近隣の各国はもちろん、地元の漁師たちも驚いた。

 海に放射性物質を含んだ汚染水を海に流すと言いながら、片方で海産物の禁輸は不当だと訴えても全く説得力がない。まして外国の政府相手に「禁輸はけしからん」と訴えたのは安倍政権である。自国の国民の安全(この場合健康上の安全)を守るのは時の政府の使命である。逆に言うと安倍政権は日本国民の安全をおろそかにしている証左でもあるのだ。

 今一つ、安倍政権はなぜか韓国に対して高圧的だ。歴史認識の違いと言ってしまえばそれまでだが、筆者が韓国やサハリンで1999年以来今日まで取材してきた限りの置いて、このようなかの国に対して高圧的な態度をとる政権は見たことがない。

 安倍政権とその支持層は間違っているとわかっているはずの右翼的な歴史認識で高圧的に接してきた。このような敵対的に韓国と接する政策こそ、我が国にとって不幸でしてはならない政策である。

 安倍首相がそんな政策を推し進めてきた結果である。

 安倍政権は逆転敗訴を素直に認めてフクシマをはじめとする国民を救済し、韓国をはじめとする諸外国に対して節度ある態度をとるべきである。

 しかるに共同通信によれば官邸内では誰かが(敗訴の)責任を取らされるのではともおっぱらの噂だとか。

 冗談ではない。この報道が事実なら真っ先に責任を取るべきは安倍首相、その男でしかない。逆切れする官邸なんてみっともないだけだ。

現代時評「令和騒動」片山通夫

まさに騒動。安倍政権は申すに及ばず、マスコミもテレビはもちろん冷静沈着なはずの新聞までが大騒ぎだ。行ってみれば日本と言う国全体が騒動状況である。 漏れ聞く当事者である皇室の状況は、皮肉なことに至って静かなのである。天皇は皇后とともに残された時間を着々と退位のために過ごされているとか。皇太子も同様である。
 一方市井では「改元詐欺」に注意を呼びかけ、改元景気なるものに期待を示す。

 そんな中、安倍首相は「令和」が我が国初の国書からとられたと鼻高々であっ

た。 なんでも出典は《初春(しょしゅん)の令月(れいげつ)にして、気淑(よ)く、風和(やわら)ぎ、梅は鏡前(きょうぜん)の粉(こ)を披(ひら)き、蘭(らん)は珮後(はいご)の香(こう)を薫(かお)らす》。天平2(730)年正月(旧暦)13日、九州・太宰府の長官、大伴旅人(おおとものたびと)の屋敷で、梅の花を愛でる宴会が開かれた。その際の様子を描いたもので、「初春のよい月で、空気がよく、風は和らいでいる。梅は鏡の前の美女が化粧する白粉(おしろい)のように開き、蘭は身を飾った香のように薫っている」という意味だ。
  その中の「令月」の「令」、「風和ぎ」の「和」を採った命名だという。

 しかし、ニューズウイークは非情にも、次の通り伝える。

 《清王朝以来「年号」を失ってしまった中国の民の、日本の新元号「令和」に対する関心の熱さは尋常ではない。元号発表の数分後からネットは反応し、「令和」の由来が東漢の張衡の『帰田賦』にあると燃え上がった》
⇒ http://ur0.biz/0mEk

 つまり決して安倍政権が胸を張って言うようなことではないというのだ。 また口の悪い連中は「令」は命令を指し「和」はその令におとなしく従うという意味にもとれるといいっている。従順な日本の国民性を表す「いい年号」だというわけだ。

 現に発表当初、アメリカのブルームバーグ通信は新元号について、「命令の『令』に平和・あるいは調和の『和』で『Reiwa(れいわ)』と報じた。

 慌てた政府は4日になって令和の英訳を発表した。「ビューティフル・ハーモニー」だと。「美しい調和」と意味するのが令和だという。

 インターネット時代の世の中、1日に発表して4日に英文訳を付け加えるのではかなりの遅れである。

現代時評《サミット》山梨良平

ハノイで開催された米朝首脳会談。金正恩(キム・ジョンウン)北朝鮮国務委員長とドナルド・トランプ米大統領は失敗劇を演じた。いつも世界中で演じられるサミット=首脳会談は最後には「笑顔で」覚書などにサインして共同記者会見を演じる。

 しかしこのサミットはいささかそのおもむきがかわっていた。通常そのテーマでかなりのすりあせが行われるはずだった。いや、外部からはうかがい知れないが、熾烈な交渉が両国のスタッフ間で繰り広げられたはずだった。

 そしてサミット。そこでは握手と笑顔の首脳たち。難しい問題をまとめ上げることができた両国のスタッフ。満面の笑みで覚書を取り交わし、共同記者会見に臨む・・・。

 こんな筋書きは見られなかった。

 ところでウインストン・チャーチルをご存じだろう。そう、彼はイギリスの首相だった。1950年2月、冷戦中のソ連の首脳との会談をやってのけた。彼はその会談をサミットと呼んだ。サミット(頂上)に登ることも至難の業だが、そこから降りることもまた難しい。  

 ハノイで後の見通せない会談をやってのけた二人の首脳は今後のサミットをどの手から差し伸べるのか、興味は尽きない。

 ところで最近になって安倍首相が「次は私自身が金氏と向き合わなければならない」と述べ、拉致問題の早期解決に向け日朝首脳会談の実現に意欲を示したと産経新聞が報じた。(19年3月6日)。

 この報道を受けてかどうかは定かではないが、北朝鮮の朝鮮労働党機関紙、労働新聞は8日付の論評で、安倍晋三首相がトランプ米大統領に、ハノイで2月末に行われた米朝首脳再会談で日本人拉致問題を提起するよう要請したことを「主人のズボンの裾をつかんで見苦しく行動した」と名指しで非難した。

 これじゃ日朝サミットは絶望的かもしれない。