「戦争をしてはいけない」と誰もが言います。しかし、その方法となると「軍備を増強して戦争を抑止する」から「非武装で外交によって平和を守る」までさまざまです。第二次世界大戦中の沖縄戦では各地で激しい戦闘が続き、人の命を奪うだけでなく生活基盤や社会インフラ、自然などすべてが破壊し尽くされました。その中で軍事施設がなく日本軍がいなかった島では破滅的な破壊を免れた例が見られます。いま、琉球弧(南西諸島)の島々に自衛隊のミサイル基地を含む軍事施設が配備され、日米の一体的な軍事体制が強化されつつありますが、沖縄戦での非軍備の島の体験は最近の軍備増強化は島の平和維持に逆行していることを教えているように思います。 “連載コラム・日本の島できごと事典 その159《非軍備の島》渡辺幸重” の続きを読む
連載コラム・日本の島できごと事典 その158《バラス島》渡辺幸重
沖縄・西表島(いりおもてじま)上原港の北東約2.5キロメートル、鳩離島(はとばなりじま)の北方約1.7キロメートルの海域に「バラス島(とう)」というサンゴの島があり、シュノーケリングや海水浴の観光ツアーで人気を得ています。ところがこの島は地図には載っていません。なぜでしょうか。 “連載コラム・日本の島できごと事典 その158《バラス島》渡辺幸重” の続きを読む
連載コラム・日本の島できごと事典 その157《からゆきさん》渡辺幸重
「からゆきさん」とは九州地方の西部や北部の言葉で、明治時代から昭和初期まで中国や東南アジアなど海外への出稼ぎのことあるいは出稼ぎに行った男女のことをいいます。島原地方(長崎県)や天草地方(熊本県)出身者が多く、長崎県の長崎港や口之津港などから海外に向かいました。特に出稼ぎだけでなく売られたりだまされたりして売春婦となった女性が『からゆきさん』(森崎和江著1976年)や『サンダカン8番娼館』(山崎朋子著1980年)などで取り上げられたことから「からゆきさん」というとこれらの女性を指すイメージが強められました。からゆきさんとして過酷な運命にさらされた女性の数は数万人、10~20万人、30万人とばらばらで確かな数はわかりませんが、背景には貧しさがあることを忘れてはなりません。実家に仕送りを続ける人も多かったでしょう。“ジャパゆきさん”という新しい言葉も思い出しますが、貧困は地域や時代を超える人類最大の悲劇かもしれません。 “連載コラム・日本の島できごと事典 その157《からゆきさん》渡辺幸重” の続きを読む
連載コラム・日本の島できごと事典 その156《最古の灯台》渡辺幸重
以前「国内最古の灯台」はどこか調べたことがありますが、かなり難航しました。いくつも出てくるのです。「洋式かどうか」「レンガ造りか石造りかコンクリート造りか木造か鉄造りか」「完成時期か初点灯時期か」「現存するか」「現役か」「官設か」などによって異なるようなので、条件を定める必要性を感じました。そこでもう一度、国内最古の灯台についてまとめてみました。
日本の洋式灯台はすべて明治期以降に建設されましたが、江戸幕府が1866(慶応2)年にアメリカ・イギリス・オランダ・フランスの4ヵ国と締結した改税約書(江戸条約)で全国に八つの灯台を建設する約束をしたことがきっかけです。その灯台とは、観音埼(かんのんさき:神奈川県)、野島埼(千葉県)、樫野埼(かしのさき:和歌山県紀伊大島)、神子元島(みこもとじま:静岡県)、剱埼(つるぎさき:神奈川県)、伊王島(いおうじま:長崎県)、佐多岬(さたみさき:神奈川県)、潮岬(しおのみさき:和歌山県)です。さらに翌年に幕府がイギリス公使と結んだ大坂約定(大坂条約)で建設することになった江埼(えさき:兵庫県)、六連島(むつれじま:山口県)、部埼(へさき:福岡県)、友ヶ島(和歌山県)、和田岬(兵庫県)の5灯台と合わせて「条約灯台」と呼ばれています。 “連載コラム・日本の島できごと事典 その156《最古の灯台》渡辺幸重” の続きを読む
連載コラム・日本の島できごと事典 その155《南洋踊り》渡辺幸重
沖縄やハワイなど南の島の音楽は心が晴れ渡るような明るい歌や踊りが特徴的です。明るい太陽、広がる青空と海、さわやかな風、緑の木々に鮮やか色の花々-歌や踊りの中にも豊かな自然と穏やかな生活を感じます。
沖縄と同じ緯度帯にある小笠原諸島(東京都)も同じです。小笠原古謡に「南洋踊り」「丸木舟」「レモン林」などがありますが、特に南洋踊りは返還祭などの島の祭りやサマーフェスティバル、連合運動会、敬老大会、観光客の歓迎イベント、日本一早い海開き(1月1日)などで披露され、腰みのや首飾り、髪飾りを身につけたいかにも南島らしい素朴な踊りで親しまれています。2000(平成12)年には小笠原における南方文化伝播の実態を知ることができる貴重な踊りとして「小笠原の南洋踊り」が東京都の無形民俗文化財に指定されました。 南洋踊りは、日本が第二次世界大戦前の1914(大正3)年から1945(昭和20)年の敗戦まで委任統治領だったサイパン・トラック・パラオなどの南洋群島(旧ドイツ領ミクロネシア)へ仕事に行っていた父島聖ジョージ教会初代牧師の長男、ジョサイア・ゴンザレスが現地の島々の歌と踊りを覚え帰ってきてから小笠原諸島に広めたといわれています。時期は大正末期から昭和の初め頃で、南洋踊りを構成する5つの歌の一つ「夜明け前」の原曲はサイパンにあることなどから「南洋踊りはサイパンから小笠原に伝わった」と説明する資料もあります。1968(同43)年の日本復帰頃までは一般に「土人踊り」と呼ばれました。
第二次世界大戦中、小笠原諸島の住民が強制疎開によって本土に移動させられたことから南洋踊りは一時途絶えたかにみえましたが島を離れた住民の間で伝えられており、日本復帰後に小笠原で復興されました。1981(同56)年には「南洋踊り保存会」が設立されています。
南洋踊りは「レフト、ライト」という言葉に合わせる行進のポーズで始まり、5つの曲を同じポーズでつないでいきます。曲は「ウラメ」「夜明け前」「ウワドロ」「ギダイ」「締め踊りの唄(アフタイラン)」で、歌詞は「夜明け前」と「締め踊りの唄(アフタイラン)」の前半は日本語ですが、他は南洋群島の言葉だということです。たとえば「ウワドロ」は「ウワドロフィ イヒヒ イヒヒ」で始まりますが意味はわかりません。タマナ(テリハボク)をくりぬいて作った打楽器「KAKA(カカ)」をギンネムの木で叩いてリズムを刻み、それに合わせてこの歌を歌い、踊ります。
ミクロネシアの「行進踊り」、ヤップ島の「マース」「テンプラオドリ」との関係が深いといわれる南洋踊りですが、YouTubeで動画を鑑賞して南島の空気を感じてください。
■南洋踊りの動画の例
・https://www.youtube.com/watch?v=z6lHS4lKXYM(「BoninGIAN」チャンネル)
・https://www.youtube.com/watch?v=Qk45D1YMoH4(「kathyの音あそび」チャンネル
連載コラム・日本の島できごと事典 その154《アビ漁》渡辺幸重
【 LapizOnline】アビはカラスやカモメより少し大きい海鳥で、冬になるとアラスカやシベリアから日本の北海道以南に飛来し、翌年の3~4月に帰っていく渡り鳥です。アビ科には種か亜種かはっきりしませんがアビ、オオハム、シロエリオオハム、ハシジロアビ、ハシグロアビの5種類があり、広島県には瀬戸内海に浮かぶ斎島(いつきじま:呉市豊浜町)周辺から県民の浜(同市蒲刈町)沖などにアビ、オオハム、シロエリオオハムが毎年12月ごろ渡来します。 “連載コラム・日本の島できごと事典 その154《アビ漁》渡辺幸重” の続きを読む
連載コラム・日本の島できごと事典 その153《一向宗弾圧》渡辺幸重
日本の宗教弾圧としてはキリシタンに対する弾圧事件がよく知られていますが、仏教界でも繰り返し起きており、その弾圧事件はよく“法難”と呼ばれます。特に一向宗(浄土真宗)信徒が武士・領主の苛烈な領民支配をするに対して戦った「一向一揆」は有名で、加賀(石川県)においては1488(長享2)年に約20万人の一向宗信徒が立ち上がり、守護大名を倒してその後100年にわたって農民・信徒が「百姓ノ持チタル国」として支配しました。 “連載コラム・日本の島できごと事典 その153《一向宗弾圧》渡辺幸重” の続きを読む
連載コラム・日本の島できごと事典 その152《領海三キロメートル宣言》渡辺幸重
【LapizOnline】島の周辺には好漁場が多くあり、漁船が集まります。しかし、大型船が多い他所から漁に来る漁船に比べて地元の島の漁船は小型船が多いので漁獲高が極端に小さいという状況がしばしば起こります。私が生まれ育った島でも山腹に立つと大海原で操業する島外の大型漁船が見え、資源を奪われるような悔しい思いをしたことがあります。 “連載コラム・日本の島できごと事典 その152《領海三キロメートル宣言》渡辺幸重” の続きを読む
連載コラム・日本の島できごと事典 その151《大東隆起環礁》渡辺幸重
【LapizOnlin】ダーウィンは環礁(アトール)の形成過程を次のように考えました(「沈降説」)。海底火山の噴火によってできた火山島の周囲にサンゴ礁が形成されると裾礁(きょしょう)となり、それが沈降するとサンゴ礁だけが上に成長して島を環状に囲む堡礁(ほしょう)ができ、元の火山島が海面下に没して周りのサンゴ礁だけが残ると環礁になるのです。 “連載コラム・日本の島できごと事典 その151《大東隆起環礁》渡辺幸重” の続きを読む
連載コラム・日本の島できごと事典 その150《オガサワラシジミ》渡辺幸重
【LapizOnline】「○○シジミ」という名前が付いた動物の種類は何でしょうか。私は貝のシジミを連想してしまいますが、私たちがよく目にするのは蝶類すなわちシジミチョウの仲間です。そのうちの一つ、小笠原諸島(東京都)の固有種であるオガサワラシジミが今、絶滅の危機に直面し「国内で最も絶滅リスクの高いチョウ」と呼ばれています。 “連載コラム・日本の島できごと事典 その150《オガサワラシジミ》渡辺幸重” の続きを読む