連載コラム・日本の島できごと事典 その156《最古の灯台》渡辺幸重

現役最古の石造灯台である紀伊大島の樫野崎灯台(串本町公式サイトより)

以前「国内最古の灯台」はどこか調べたことがありますが、かなり難航しました。いくつも出てくるのです。「洋式かどうか」「レンガ造りか石造りかコンクリート造りか木造か鉄造りか」「完成時期か初点灯時期か」「現存するか」「現役か」「官設か」などによって異なるようなので、条件を定める必要性を感じました。そこでもう一度、国内最古の灯台についてまとめてみました。


日本の洋式灯台はすべて明治期以降に建設されましたが、江戸幕府が1866(慶応2)年にアメリカ・イギリス・オランダ・フランスの4ヵ国と締結した改税約書(江戸条約)で全国に八つの灯台を建設する約束をしたことがきっかけです。その灯台とは、観音埼(かんのんさき:神奈川県)、野島埼(千葉県)、樫野埼(かしのさき:和歌山県紀伊大島)、神子元島(みこもとじま:静岡県)、剱埼(つるぎさき:神奈川県)、伊王島(いおうじま:長崎県)、佐多岬(さたみさき:神奈川県)、潮岬(しおのみさき:和歌山県)です。さらに翌年に幕府がイギリス公使と結んだ大坂約定(大坂条約)で建設することになった江埼(えさき:兵庫県)、六連島(むつれじま:山口県)、部埼(へさき:福岡県)、友ヶ島(和歌山県)、和田岬(兵庫県)の5灯台と合わせて「条約灯台」と呼ばれています。

 灯台建設は明治政府に引き継がれ、フランス人技師フランソワ・レオンス・ヴェルニーが観音埼、野島埼、品川(東京都)、城ヶ島(神奈川県)の4つの灯台を、「日本の灯台の父」と称されるイギリス人技師リチャード・ヘンリー・ブラントンがその他の灯台を含め約30の灯台を担当しました。なお、品川と城ヶ島は条約灯台ではありません。品川灯台は品川沖の第二台場に建設されました。
 ヴェルニー担当の4灯台はすべてレンガ造り、ブラントン担当の樫野埼・神子元島・剱埼の各灯台は石造り、伊王島灯台と佐多岬灯台は鉄造、潮岬灯台は木造となっています。

 これらの灯台の初点灯時期は、もっとも早い観音埼灯台が1869年2月11日(明冶2年1月1日)で、続いて野島埼灯台の1870年1月22日(同2年12月21日)、品川灯台の1870年4月5日(同3年3月5日)、樫野埼灯台の1870年7月8日(同3年6月10日)、城ヶ島灯台の1870年9月8日(同3年8月13日)、神子元島灯台の1871年1月1日(同3年11月11日)です(西暦はグレゴリオ暦)。従って、国内における灯台の建設順(初点灯)はこの順番になります。ちなみに、潮岬灯台は樫野埼灯台とともに着工し、1870(同3年)に完成しましたが、イギリスから灯台機械を運搬していた船が東シナ海で沈没したため本点灯は1873(明治6)年と遅れました。

 では「最古の灯台」をまとめてみましょう。
 以上のことから「日本で最初に点灯した洋式灯台」は観音埼灯台だとわかります。当然ながらレンガ造りの中でも最古です。石造りでは樫野埼灯台、コンクリート造りでは鞍埼灯台(宮崎県)、鉄造りでは伊王島灯台(長崎県:1871年本点灯)、鉄筋コンクリート造りでは清水灯台(静岡県:1912年初点灯)が最古となります。なお、木造では完成は潮岬灯台が最古ですが、初点灯では静岡県伊豆半島石廊崎(地名)にある石廊埼灯台(1871年設置・初点灯)になります。

 古い灯台でも当時のものが残っていると「現存」となります。そのなかで現在も使われているものが「現役」です。1923(大正12)年の関東大震災では観音埼・野島埼・城ヶ島の3灯台が倒壊しました。1番目・2番目の灯台が倒壊したため「現存する最古の洋式灯台」は品川灯台になりました。ただし、品川灯台は明治村に移されたため「現役」ではありません。従って「現役で最古の洋式灯台」は樫野埼灯台です。もちろん石造灯台でも現役最古です。煉瓦造りでは城ヶ島灯台が関東大地震で倒壊しコンクリート造りで再建されたため現役最古の煉瓦造灯台は菅島灯台(三重県:1873年初点灯)、鉄造りでは伊王島灯台が2003年(平成15年)に改築されたため姫埼灯台(佐渡島:1895年初点灯)が現役最古になります。

 私が解説編を担当した『新編日本の島事典』(三公社発行)では、「神子元島(下巻p152)」の項目で「(神子元島灯台は)現存するわが国最古の官設の洋式石造灯台」と書きましたが、これは間違いであることがわかりました。「わが国で最古級の石造灯台」などとするべきでした。本事典の「紀伊大島(下巻p103)」の項では「(樫野崎灯台は)日本最初の回転式閃光灯台」と説明しましたが「現役最古の石造灯台で日本最初の回転式閃光灯台」が丁寧な説明となります。樫野崎灯台は1954(昭和29)年の改築で灯塔が中継ぎされましたが、「現存で現役」であることに変わりはないようです。
 担当者として間違いである記述を事典に残したことを深く反省し、間違いが一人歩きをしないようにする方策を考えていきます。