連載コラム・日本の島できごと事典 その154《アビ漁》渡辺幸重

アビ漁の様子(「文化遺産オンライン」サイトより)

【 LapizOnline】アビはカラスやカモメより少し大きい海鳥で、冬になるとアラスカやシベリアから日本の北海道以南に飛来し、翌年の3~4月に帰っていく渡り鳥です。アビ科には種か亜種かはっきりしませんがアビ、オオハム、シロエリオオハム、ハシジロアビ、ハシグロアビの5種類があり、広島県には瀬戸内海に浮かぶ斎島(いつきじま:呉市豊浜町)周辺から県民の浜(同市蒲刈町)沖などにアビ、オオハム、シロエリオオハムが毎年12月ごろ渡来します。広島県はこの3種類のアビを総合して県鳥「アビ」に指定しています。アビはその鳴き声が壇ノ浦の戦いで平家が滅亡したことを悲しむ声とされることからヘイケドリ、ヘイケダオシとも呼ばれます。

アビは小魚を主食とし、瀬戸内海では主にイカナゴを餌としています。アビが群れて海面や海中でイカナゴを威嚇して集め、イカナゴ漁をしているときそのイカナゴを狙ってタイやスズキが集まるので、人間はそれを釣るために船を出します。それが「アビ漁」で、その漁場を「鳥持網代(とりもちあじろ)」や「鳥付網代」と呼びます。

アビ漁は江戸時代の元禄時代あるいは寛永時代に始まるといわれる300年以上の伝統を持つ古い漁法で、かつては瀬戸内海西部の芸予諸島(広島県)から防予諸島(山口県)の周辺海域まで広範囲に行われていましたが、イカナゴの減少によってアビの飛来も減少したことで衰退し、1986(昭和61)年頃に行われなくなりました。イカナゴの減少の原因は、瀬戸内海全体で約6億立方メートルと推計される海砂の過剰採取によって海底環境が大きく変化したためとされています。アビの飛来数は多いときには1万羽以上もあったようですが広島県の調査によると1982(同57)年には900羽、1989(平成元)年以降は100~160羽前後と急速に減少、近年は100羽前後でその回復は難しいという声が聞かれます。アビは神経質な鳥なので減少の原因の一つとして高速船など瀬戸内海を往来する船舶の増大も指摘されています。

遅くまでアビ漁が行われたのは広島県呉市の南東海上に連なる下大崎群島の島々の周辺海域で、1931(昭和6)年に「アビ渡来群游海面」として国の天然記念物に指定されました。漁区として下大崎群島の南から斎島周辺、二窓島(ふたまどじま)を含む尾久比島西部海域、大崎下島南西部の雀磯周辺、三角島(みかどじま)の南西・北西海域などに「第4種共同漁業権(たい寄魚)」が指定され、網漁が禁止されています。また、下大崎群島周辺の広い海域が鳥獣保護区で、特に南部域の斎島周辺のアビ渡来海面は毎年12月から4月まで鳥獣保護区特別保護指定区域に指定されてアビの保護が図られています。他にもアビは1912(明治45)年に狩猟法によっても保護鳥に指定されて季節を問わず捕獲禁止となり、保護されてきました。

「(アビ漁は)漁師とアビとの信頼関係があって初めて存続してきた漁法」という説明を見ました。アビ漁の衰退はイカナゴやアビ、タイの生存が脅かされていることを示していますが、人間もその連環の中にあることを考えると人間の生存も脅かされているような気がします。