現代時評《石破首相の「核共有」を阻む被団協のノーベル賞受賞》渡辺幸重

~平和賞が私たちに警告する“戦争への道”~

日本被団協(日本原水爆被害者団体協議会)のノーベル平和賞受賞が決まった。しかし、私たちは喜んでばかりはいられない。いや、私たちは喜んではいけない。これは私たちにとって“戦争への道”“平和の危機”への警鐘を鳴らされていることだからだ。

■被団協、「核共有」を強く批判

報道によると、被団協の記者会見では米国の核兵器を共同運用する「核共有」に石破首相が言及していることに対して批判が強く出されたという。田中熙巳(てるみ)代表委員(92)は「核共有は論外だ。怒り心頭だ。核の恐ろしさを知っているなら考えなさいと言いたい」と批判した。また、和田征子事務局次長(80)も「戦争被爆国が加害国になるかもしれない。許してはならない」と訴えた(毎日新聞、朝日新聞など)。

■平和とはほど遠い世界情勢、軍事大国化を進める日本政府

世界を見ると、プーチン・ロシア大統領が通常兵器による攻撃に対しても核兵器で反撃すると発言したり、アメリカとロシアが持つ核ミサイルが1万発以上で中国も核兵器を増やす核軍拡を進めているなど、核軍縮が進んでいるとは言いがたい。日本政府は核兵器禁止条約に対してオブザーバー参加さえせず、岸田前首相は広島選出の国会議員で核兵器廃絶を口にしながらもサミットでは核兵器による「拡大抑止」が打ち出され、安倍元首相の政策をさらに推し進めて日本の軍事大国化=「戦争をする国」への道をまっしぐらに進んでいる。「戦艦大和のふるさと」と言われる広島県呉市は戦前は「東洋一の軍港」だったが、ここに国は装備品の維持整備・製造、訓練、補給の三つを一体的に機能させる「多機能な複合防衛拠点」の整備を進めており、「軍都復活」と批判されている。
私のライフワークである島嶼をみると、自衛隊基地が続々と建設され、ミサイルがずらりと配置されつつある。琉球弧を中心に日本列島が軍事列島と化しているのだ。

一方、米軍は自衛隊との一体化をてこに自衛隊と一緒に日本列島および周辺海域で好き勝手に訓練や演習を繰り返している。オスプレイなどの米軍機や艦船は適当な理由を付けて日本の民間空港や民間港湾に自由に立ち寄っている。首都圏の空も含め、日本の制空権は米軍に握られていると言ってもいいほどだ。米軍は世界の戦争・紛争にからんでいるから日本列島がその道具にされることも十分にあり得ると考えなければいけない。

■石破首相は日本国民と徹底的な軍事論争を行え

石破新首相は軍事の専門家らしい。自民党の総裁選挙ではアメリカに日米地位協定の見直しを要求すると言ったが、首相になってからは一時その発言を封じ、自民党内の勢力争いの中でぶれにぶれている。今回の被団協の平和賞受賞には祝福を伝えたらしいが、一体何を考えているのか。
石破首相が軍事に詳しいのなら防衛政策を徹底的に議論して欲しい。日本列島を軍事施設で埋め尽くして果たして平和が保てるのか。戦争をし、壊滅的な被害を受けても守るべきものがあるのか。中国との緊張関係が強まることが日本の利益になるのか。

私は純粋な軍事論からしても軍備拡大で平和は守れないと思う。心ある軍事評論家は今の日本政府の軍事戦略・防衛政策は古めかしい対米従属の政策で日本をダメにすると批判している。アメリカが廃棄するはずの古めかしい兵器を爆買いしてもそれを操る自衛隊員は不足しているという。人口減少社会で働き手となる若者がいない状況で、人を殺す目的の兵士=自衛隊員を増やしてどうするのか。それが政府のやることだろうか。

■総選挙で「軍事大国化はダメ」の意思表示を

被団協の平和賞受賞を契機として国民的議論を巻き起こして政府に突きつけようではないか。その機会は近い。10月15日は衆議院選挙が公示され、10月27日は投票日である。裏金問題や経済、生活など争点は多いが、私は、日本がこのまま米国にくっついて軍事大国への道を進んでいいのかどうか、が最大の争点だと考えている。今回の被団協のノーベル平和賞受賞でその意をますます強めた。来たるべき総選挙で日本国民の平和への意思が表明されることを心より望むものである。