ONCE UPON a TIME 外伝”ヘミングウエイ「老人と海」#1″片山通夫

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かくして、ボクはキューバに半年ほどいた。もちろんくまなくキューバの島を回った。漁船にも乗った。漁船で思い出したが、ヘミングウエイ記念とでも訳すのか「カジキマグロ釣りコンテスト」があった。ハバナの沖合の海で数十隻の小舟、ちょうど日本の渡し船(伝馬船)程度の小舟でカジキを釣るコンテスト。「老人と海」とは違って小舟にはエンジンがついている。無論トローリングで釣る。ボクが乗せてもらった小舟には二人の知り合いの漁師がのっていた。
「なんだお前か」と彼らが僕を歓迎してくれたことは言うまでもない。
野球で使うバットが2本小舟に転がっていた。聞いてみたら「釣れたらこのバットでカジキを撲殺する」らしい。危険な!

ハバナの町を遠くに眺めながら小舟は走り回った。その間、彼らはラム酒を呑む。ボクはと言えば、そんな余裕はなく、必死になって小舟を操った。つまり小型エンジンのハンドルとアクセルをもって「操縦した」。

突然小舟が傾ぐ。「ガツン」という衝撃。釣り糸を持っていたキューバ人が、激しく糸をを手繰った。まさにヘミングウエイの「老人と海」の漁師のように。糸は彼の背中に回してゆっくりと体全体で退いたり手繰ったり、そして徐々に魚を引き寄せた。ボクはと言えば小舟の進むスピードと方向がまったくわからなかったので、もう一人の漁師に席を譲った。彼は素早くボクの席に代わった。そしてボクには理解できない早口で二人で掛け合いを始めた。きっと漁師仲間だけに通じるやり取りだろうと思う。それともボクにはまだ理解できないスペイン語だったのかもしれない。

カジキは時にはジャンプし、また海に潜った。(続く)

*25日火曜日は井上脩身氏の「現代時評」です。
*”ヘミングウエイ「老人と海」2″は27日に掲載します。