連載コラム・日本の島できごと事典 その49《ユネスコ「消滅危機言語」》渡辺幸重

2009年(平成21年)、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)は世界で2,500の言葉を「消滅危機言語」として発表しました。世界に6000~7000の言語がありますが、各地でマイナー言語 (規模の小さな言語) が消滅の危機にあり、このままでは100年のうちに半数が確実に消滅し、最悪の場合はいまの10分の1~20分の1にまで減るといわれます。ユネスコは日本では8言語・方言を取り上げ、アイヌ語を「極めて深刻」とし、八重山語(八重山方言)・与那国語(与那国方言)を「重大な危機」、八丈語(八丈方言)・奄美語(奄美方言)・国頭(くにがみ)語(国頭方言)・沖縄語(沖縄方言)・宮古語(宮古方言)を「危険」と認定しました。アイヌ語・八丈語以外は沖縄・奄美地方の言語になります。「言語の多様性は人類を豊かにしている」としてその価値を訴え、継承していく活動が起きていますが、マイナー言語はこれからどうなっていくのでしょうか。
石垣島や竹富島、波照間島などで話される伝統的な言葉(八重山語)はスマムニ、ヤイマムニと呼ばれ、話者は約4万5千人いるといわれます。同じ八重山諸島でも与那国島の言葉は八重山語に属さないとされ、地元ではドゥナンムヌイと呼ばれます。国立国語研究所の推計では与那国語の話者は2010年時点で393人で、住民でも50歳半ば以下で話せる人は稀で、年少者は理解することもできないということです。竹富島には八重山語に属する島言葉テードゥンムニを守り伝える活動があります。島の子供たちによって毎年発表会(テードゥンムニ大会)が開かれます。27年間かけて採集した方言を収録した前新(まえあら)透の『竹富方言辞典』は2011年の第59回菊池寛賞を受賞しました。奄美群島の与論島でも島の言葉ユンヌフトゥバを教える学校の授業があるなど地域一帯となって方言を守る取り組みが行われています。また、国立国語研究所は2014年から毎年、8言語・方言の記録と継承に係わっている者が一堂に会する「日本の消滅危機言語・方言サミット」を開催しています。Webには「日本の消滅危機方言の音声データを紹介するサイト」もあります。
消滅が心配されるマイナー言語は全国各地に存在します。東日本大震災時の原発事故により避難を余儀なくされた福島県浜通の地域社会でも伝統的言語の消滅が心配されています。また、同じ地域でも集落ごとに微妙に言葉の違いがあります。私の故郷は屋久島の平内(ひらうち)という小さな集落ですが、隣の集落とイントネーションが大きく異なります。東京の出身者の会に参加した地元代表が「東京に来たおかげで久しぶりに田舎の言葉をしゃべることができた」と語ったことがありました。私がしゃべる“平内弁”もすでに「極めて深刻」な消滅危機言語なのかもしれません。