現代時評《政治と新型コロナウイルス》山梨良平

国際政治もややこしい。最近台湾とWHOのさや当てが激しい。筆者が思うに、もとをただせば中国が台湾の自分の国のひとつの省としか見ていないということから始まったように思える。「原則論」である。あれだけ広い面積を持ちながらである。圧倒的な経済力で国連加盟国を味方につけ、ついにはWHOからも締め出した。 ところが、諸説があろうが今世界で猛威を振るっている新型コロナウイルスは、中国・武漢から始まった。その原因はまだはっきりしない。

ご承知のように、台湾は経済的にも中国と深い関係にある。ところがここにきて世界中のどこもが直面しているように経済的な孤立化が進んでいる。つまり経済的な交流が停滞しているといえる。もちろんこれは蔓延する新型コロナウイルスのせいだ。中国はアメリカなどが「武漢ウイルス」などとこころない表現をするのに神経質になっており、WHOに圧力をかけているように見える。それはパンデミックをなかなか認めようとしなかったWHOの方針にも表れていて、台湾をこの事態から排斥している現状からもうかがえる。西側の多くの国が台湾にWHOへの参加を働きかけているようだが、WHOはこれを認めようとしない。

そんな中、事態は大きく変わった。決して良い方向ではなく悪い方向にである。

昨年12月、台湾はWHOに対して「コロナウイルスは人から人へ感染する」と警告したという。少し長いがフォーカス台湾のニュースを以下に引用したい。

台湾は昨年、中国・武漢で呼吸器系の感染症が発生しているとの情報に基づき、保健当局を通じて同1231日、WHOの連絡窓口に電子メールで通報していた。

WHOへのメールには重症急性呼吸器症候群(SARS)を疑わせるような症状があることや「患者が隔離治療を受けている」ことが明記されており、公共衛生分野のプロならこれで人から人への感染の可 能性を判断できるとの見解を示している。陳氏は、WHOは台湾の通報内容から「隔離治療」に関する一節を見落としたと指摘。WHOがこの部分をはっきりと世界に伝えれば、その後の対応がどうであったか「一目瞭然だ」と述べ、焦点をぼかさず、正直にこの件と向き合ってほしいと呼び掛けた。

AFP通信は、米政府が9日、政治を優先して台湾の警告を顧みなかったとWHOを非難したと報道。これを受けたWHO10日、同社に宛てた電子メールで米の指摘を否定した上で、台湾から受け取った文書には「人から人に感染するとの言及はなかった」と主張していた。

筆者など素人が考えるに、このようなメールを受け取った場合、事の真意や意味を聞き返すという行動が必要だと思う。しかしながらWHOはおそらく台湾からのメールを握りつぶしたのだと思われる。その証拠に香港のテレビ局がWHOの事務局長補佐官にインタビューした番組で次のようなやり取りがあった。(2020328日 香港の公共放送「RTHK(香港電台)」の報道番組)

「質問が聞こえない」「ほかの質問に移ろう」――。香港のニュース番組に出演した、WHO(世界保健機関)のブルース・アイルワード事務局長補佐官のインタビューから。https://www.bbc.com/japanese/52102309
 この出来事は、中国寄りの香港政府の怒りを買った。

インタビューの質問は中国が主張する「一つの中国」の原則や、公共放送の規則に違反するものだと非難。一方のRTHK側は、台湾を「国家」と表現していないと主張し、「報道の自由の侵害だ」「質問する自由もないのか」などと政府の対応を批判している。 (4月3日産経新聞電子版)

余波はまだまだ続く。

WHOのテドロス事務局長は現地時間8日の記者会見で、過去3カ月にわたり台湾から人身攻撃を受けたと述べた。外交部(外務省)は9日、報道資料で「強い不満、深い遺憾」を示し、「断固として抗議する」と表明した。(台北中央社 ) 

 これに対して台湾政府外交部は

 「台湾は成熟した素養の高い先進民主主義国家であり、WHO事務局長本人に対する人身攻撃を人々に促すことは絶対になく、ましては人種差別的言論を発表することはありえない」と強調。また、テドロス氏を批判する言論は「いずれも中華民国(台湾)外交部とは無関係であり、中華民国(台湾)外交部が操れるものではない」と抗議した。

 さらに、テドロス氏が事実確認をせずに、理由なく台湾に対して事実とは異なる非難をし、台湾の政府や人々を深く傷つけたとし、「この中傷行為は極めて無責任。台湾政府はテドロス氏に根拠なき非難の訂正や即時釈明、台湾への謝罪を求める」と要求した。

 この泥仕合、筆者は台湾に理があるように思えるが、いかがだろう。