現代時評《流言飛語を信じるな!》片山通夫

 関東大震災の混乱の中で、官憲や民間の自警団などにより多数の朝鮮系日本人および朝鮮人と誤認された人々が殺害された事件があった。その時殺害された人々の数には数百名~約6000名と、非常に幅広い差がある。今もって確定できていない。

 そして2019年の今年、沖縄・那覇の首里城が炎上した。この稿を書いている11月4日午前現在、まだ原因は特定されていないようである。ただ、「正殿内に外部から侵入した形跡はなく、県警は放火の可能性は低い」と県警はみている。

 ところがインターネット上には、火災発生当初から「中国・韓国人による放火」「プロ市民の仕業」などというデマ情報があふれだした。そしてこのデマは拡散されてお祭り状態になっているという。また、韓国出張中の玉城デニー知事に関し「韓国に避難している。(知事が)指示したかも」という中傷も一時流れた。動画投稿サイトには「犯人は僕です」との投稿があり、炎上したが現在は削除された。

 いったいこの現象はなんなのだろう。筆者が思うところを書く。

朝鮮人の犠牲者数は、在日本関東地方罹災朝鮮同胞慰問班が官憲の協力を得られないまま調査を進めた結果であり、あまり信頼出来そうもないようだ。とまれ、実際に虐殺は起こった。以下ペディアから引用する。

 震災発生直後の9月1日午後3時以降、東京や横浜などで「社会主義者及び鮮人の放火多し」「不逞鮮人暴動」といったデマが発生していったが、デマの中には警察や軍が流したものもあった。これらの報道や伝聞による噂に接し不安を煽られた各地の民衆や有志によって自警団が結成されたが、中には地域の管轄警察の主導・指導で組織された自警団もあった。これら自警団の一部によって朝鮮人・日本人・中国人らが虐殺されていった。陸軍や警察はこの混乱を奇貨として社会主義者や労働運動家らの抹殺を画策し、10名が軍隊に虐殺された亀戸事件および無政府主義者が憲兵大尉らに殺害された甘粕事件が実行されたが、こうした「白色テロ」に対する責任追及や批判は低調だった。当時の社会にとっては治安維持と被災者救援活動の一環であり、軍や政府や警察が威信を取り戻したとして歓迎される状況になっていた。

 澤明の自伝『蝦蟇の油―自伝のようなもの』の中では、当時中学2年生だった黒澤の関東大震災時の体験が語られている。その中に黒澤の父親が長い髭を生やしているという理由で朝鮮人に間違われ暴徒に囲まれた話や、黒澤が井戸に書いたラクガキを町の人々が「朝鮮人が井戸に毒を入れたという目印」だと誤解し騒ぎになるというエピソードがある。

 一部では官憲の主導で自警団が結成されというから、おぞましい。

  ここに見るように「官憲の指導のもと」とまではともかく、今は「匿名で無責任にデマを飛ばせる」状況である。首里城の火災、台風19号などの自然災害などが起こった時に無責任なデマを飛ばす神経が分からない。一般に日本人は秩序正しくて優しく

思いやりがある民族だと定評がある。阪神淡路大震災時や、東日本大震災時の混乱時にも、略奪などの暴動は起こらなかった。外国人から見れば驚くほどの我慢強さと秩序正しさだといわれている。

 それが関東大震災時から、この首里城火災に至るまでの長い年月、日本人は自然災害にも耐えてここまで来た。それをあざ笑うようなデマでぶち壊しに「なろうとする危険がある。無責任だし、醜い。私たちは他人を貶めてほくそ笑むそんな人間ではなかったはずだ。 

 デマの拡散には気を付けなくてはならない。