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【609 Studio】email newsletter 2025年3月11日 No.1198
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世界の話題、LAPIZ編集長・井上脩身氏のコラムなど多彩な話題満載!
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◆現代時評《トランプ氏の「感謝」を読み解く》井上脩身
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1点の写真画像にわたしの目がくぎづけになった。星条旗にフランス語で「MERCI(ありがとう)」と書きこまれている。フランス北部のノルマンディー米戦没者墓地で撮影、ネットにアップされたもので、フランス国民のアメリカへの感謝の念が見事に表されている。トランプ米大統領は2月28日、ホワイトハウスでウクライナのゼレンスキー大統領と会談したさい、アメリカに対する感謝を求め、会談は決裂した。ウクライナ戦争の停戦交渉を進めるうえで、「感謝」を条件にするトランプ氏の発言がなんとも不可解であったが、星条旗の「MERCI」に、トランプ氏の真意を解くカギがあるようにおもわれた。ノルマンディー上陸作戦の成功で感謝された人物といえば、当時の大統領・ルーズベルトと、最高司令官でのちに大統領になるアイゼンハワーである。トランプ氏は感謝される大統領になりたいのであろう。だが、侵略されて戦火に苦しむ国の大統領に、感謝を強要、そのしるしの品としてレアアースを求めたことで、「感謝されることのない大統領」であることを露呈したのであった。
ノルマンディー上陸作戦は、第二次世界大戦中の1944年6月6日から、アメ
リカ、イギリスを主力とする連合国軍が、ナチス・ドイツ占領下のフランス北部
のノルマンディー海岸に上陸した、西部戦線での一大会戦だ。作戦初日だけで1
5万人、1週間で約50万人が英仏海峡をわたって敵前上陸したのに対し、ドイ
ツ軍は30万人の兵力で抵抗。45年1月、両軍合せて50万人の死者をだして
会戦は終了、45年5月、ドイツは降伏した。この作戦によって、フランスは解
放され、第二次大戦の終結につながった。
この作戦の7カ月余り前の1943年11月28日、ヨーロッパ参戦を決意した
ルーズベルトはイギリスのチャーチル首相らとテヘランで会談し、1944年5
月を期して西部戦線での展開を決定。これに基づき、連合国遠征軍最高司令官の
アイゼンハワーのもとで作戦が練られた。開始当日、天候が悪く「作戦延期」を
もとめる声もあったが、アイゼンハワーは「Will go」といって決行を決断。だ
が米軍の損害は大きく、死者は2万人以上にのぼった。
作戦開始2日後の1944年6月8日、米国陸軍はノルマンディーに仮墓地を建
設。戦後、移設されることになり、フランス政府が新たな墓地を恒久的租借地と
して無賃料、無税で提供。9387人の遺体が葬られ、星条旗が常にたなびいて
いる。冒頭に述べた「MERCI」書き込みの旗はいつ立てられたのか、残念ながら
ネットには記載がない。
ルーズベルトは欧州参戦よりも、ニューディール政策を進めたことで歴史にその
名を刻んだ。世界恐慌による不況の克服のため、従来の自由主義的経済政策から、
政府が積極的に関与する国家資本主義的政策に転換したのだ。ニューディールは
トランプゲームで親がカードを配り直すことを指し、ルーズベルトは新規まき直
しの意味でこの用語を経済政策のキャッチフレーズとして使用した。ルーズベル
トは大統領就任前、ラジオで「大統領になったら1年以内に恐慌前の物価水準に
戻す」と宣言したことから、以後の新大統領は「最初の100日で何をするか」
が問われるようになり、「100日ルール」とも呼ばれている。
ルーズベルトは歴代大統領人気ランキングで5位に入るほどに今なお人気を得て
いるが、問題ある政策も少なくない。最高裁判事の人事介入、アフリカ系アメリ
カ人公民権運動に対する妨害、ソ連の指導者・スターリンの侵略行為の黙認、そ
して日本人にとって見過ごすことのできない原爆製造を進めるマンハッタン計画
の主導である。
米ソ冷戦時代に大統領となったアイゼンハワーには、ルーズベルトに比べると
華々しい事績は乏しい。ここであえて挙げるならば、大統領就任後、行き詰まっ
た朝鮮戦争を停止すると約束したことであろう。実際、1953年7月、休戦協
定に署名した。ソ連首脳との会談を何度も試みたが1960年、ソ連上空でU?
2偵察機が撃墜されたことで頓挫した。もし米ソ首脳会談が実現していたら、歴
史的会談になったであろう。
トランプ氏は大統領1期めの2019年6月6日、ノルマンディー上陸作戦75
年記念式典に参列し、フランスのマクロン大統領とともに米軍戦没者墓地に足を
運んだ。マクロン氏は米退役軍人に謝意を述べ「他国の自由のために戦うときの
アメリカは偉大だ」とたたえた。このときに、墓標の前に「MERCI」と書かれた
星条旗が立っていたかは定かでないが、ナチス・ドイツから救済してくれたこと
に対するフランス国民の感謝のおもいを、トランプ氏は痛感したはずである。
ルーズベルト、アイゼンハワーに思いをいたせば、「自分も感謝される大統領に
なろう」とのおもいを抱きだしたとしてもおかしくない。
トランプ氏は2期目の大統領就任とともに、カナダ、メキシコと中国からの輸入
品に追加関税を課すと表明。この3か国でアメリカの輸入の40%以上を占めて
おり、ニューヨークタイムズは「関税は1940年代以来の水準まで引き上げら
れる」と報道。1940年代といえばルーズベルトの大統領時代である。おそら
くニューディール政策を表面だけまねたのであろう。これまでの関税を低くする
自由貿易主義から保護主義的タリフ政策へと、新規まき直しを図ったのである。
ルーズベルトにとって最大の課題が第二次大戦をどう終わらせるかであったよう
に、トランプ氏にとって最重要課題はウクライナ戦争をどう終わらせるかである。
2024年5月「わたしが大統領なら1日で終わらせる」と大見えをきった。1
日はともかく、新大統領ルールにしたがって100日で終わらせなければならな
い。アイゼンハワーが朝鮮戦争を停戦させたように、まずは停戦に持ち込む。そ
のためには、ロシアのウクライナへの侵略には目をつぶり、プーチン大統領と直
取引をすることだ、とトランプ氏は考えたようである。
繰り返すが、ノルマンディー上陸作戦については、成功=フランス救済=第二次
大戦終了=感謝??という図式であった。トランプ氏は、ウクライナ戦争停戦=ウ
クライナ救済=第三次世界大戦阻止=感謝??という図式を頭のなかでえがいたう
えで、ゼレンスキー大統領との会談に臨んだにちがいない。会談の席にゼレンス
キー氏がスーツを着ていないことを保守系メディアの記者が「失礼でないか」と
なじったこともあって、トランプ氏の本音発言がとびだした。「もっと感謝しな
ければならない」「我が国に対して失礼」「(ウクライナの)何百万人の命を第三次世界大戦に賭けるのか」などとまくしたてた。
トランプ氏にとって、停戦即感謝であっても、ゼレンスキー氏にとっては「安全
の保証」という真の救済が実現してはじめて感謝の心がわいてくるというものだ。
そもそもトランンプ氏の停戦の申し出には危うさが潜んでいる。朝鮮戦争は停戦
し、38度線を境に半島が何北に分断、固定されたように、ウクライナも停戦に
よって東南部のロシア占領地との境界線で分割、固定されるおそれがあるのだ。
それはウクライナ救済ではなく、見捨てることにほかならない。
仮にトランプ氏によってウクライナ戦争が終結できたとしたら、大いに感謝され
るだろう。その場合でも、感謝は求めるべきものではない。ましてや、まだ戦争
が終わってない段階で感謝を要求するのは非常識もはなはだしい。しかも、冒頭
に述べたように感謝のしるしとしてレアアースを差し出すよう求めているのであ
る。感謝は心からわき出るものであって、モノ、カネで計れるものではない。だ
が、トランプ氏はモノ、カネでなければ価値が判断できないに相違ない。なんと
いう心の貧しい大統領であろうか。
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【出版案内】
「光太 虹の国に行く」 いのしゅうじ(本名・井上脩身) 著
中学1年生の光太が同級生のケイ子とともに、1万匹のタマムシが引く飛行機
に乗って虹の国に行き、虹の国の子どもたちと冒険をする物語。
詳しくは https://x.gd/x39ud
文芸社 刊 ISBN:978-4-286-24684-0
定価:1,320円 (本体 1,200円)
判型:四六上
ページ数:164
発刊日:2023/11/15
ジャンル:童話
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◇◇世界よもやま話◇◇
《朝鮮半島》
「戒厳擁護ドキュメンタリー」ドイツ公共放送から消えた…ウェブサイトからも
削除:韓国における違憲的な非常戒厳事態や極右集団の不正選挙陰謀論を擁護し
たと評されているドイツの放送局のドキュメンタリーが、ウェブサイトから削除
されるなどで完全に退出させられた。
https://japan.hani.co.kr/arti/international/52607.html
韓国裁判所、尹大統領の拘束取り消し…検察が7日以内に抗告しなければ釈放
https://japan.hani.co.kr/arti/politics/52600.html
北朝鮮軍がドローン妨害機器を使用 ロシア軍から支給=捕虜が証言
https://jp.yna.co.kr/view/AJP20250306004400882?section=nk/index
「尹奉吉追悼館反対」日本の右翼団体メンバーが在日団体の建物に車で突進
https://japan.hani.co.kr/arti/international/52557.html
トランプの自縄自縛…関税戦争でドル価値が5.2%下落
https://japan.hani.co.kr/arti/economy/52588.html
尹大統領の釈放決定 ソウル中央地裁
「非常戒厳」を宣言し、内乱を首謀した罪で起訴された尹錫悦(ユン・ソンニョ
ル)大統領が近く釈放されることになります。今年1月26日に拘束起訴されてか
ら40日ぶりです。
https://world.kbs.co.kr/service/news_view.htm?lang=j&Seq_Code=89579
《その他海外》
ポーランド、全成人男性に軍事訓練実施へ 対人地雷禁止条約の脱退も検討
https://www.afpbb.com/articles/-/3566637?cx_part=top_topstory&cx_position=3
ロシアがクルスク州で防衛線突破、ウクライナ軍の退路狭まる 報道
https://www.afpbb.com/articles/-/3566634?cx_part=top_topstory&cx_position=1
トランプ氏、ロシアは「あらゆるカード」保有 制裁示唆後も融和姿勢継続
https://www.cnn.co.jp/usa/35230238.html
トランプ氏、カナダへの新たな関税示唆 乳製品に税率250%も
https://www.cnn.co.jp/usa/35230241.html
シリア暫定政府の治安部隊がアラウィ派民間人を殺害か、アサド派との衝突続く
なか https://www.bbc.com/japanese/articles/c14j7r8l8nxo
トランプ氏、対ロシア「大規模」制裁と関税を検討中と
https://www.bbc.com/japanese/articles/clyrdznz5g4o
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【出版案内】
片山通夫写真集 ”ONCE UPON a TIME”
アマゾンでも電子雑誌として販売中! https://onl.bz/EVvmBhx
60年代から撮り続けたドキュメンタリー220点あまりを収録した写真集。1960年
代のキューバ、「北送」と呼ばれた在日朝鮮人の祖国帰還の新潟港。ベイルート
の重信房子、ブルガリア、チェコ、ルーマニアなど東欧諸国の民主化や廃墟とな
ったチョルノブイリ、作者のライフワークとなったサハリンの戦後問題。そして
時代を映す日本の折々の風景をモノクロームで描いた作品集。オンデマンド印刷。
全286頁。モノクローム写真239点を収録。
発行 publishing house Lapiz
本体価格 5000円(税込)+送料(600円)
お問合せ・ご注文はメールで。
michiokatayama*gmail.com *→@に変えてください。
お名前、電話番号、郵送先など連絡先をお忘れなく。
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◇編集長から:片山通夫
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あれから14年。災害は忘れた頃にやってくると言う。皆さん、日頃から対策をお
忘れなく。
トランプ氏がアメリカ大統領に就任してから、急に世界中がきな臭くなってきた
ような気がする。経済にめったく疎い筆者でも、輸入関税を急に挙げたら市民生
活は極度に混乱すると感じるのだが・・・。
関西万博、混乱しているようだ。福井県は全児童にチケットを無料配布するとか。
親が困惑。子供一人じゃ行かせられない。かといって・・・。
個人(この場合保護者)で入場チケットを購入するにはとんでもなく手がかかる
し費用も生半可な額じゃなさそう。
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【609 Studio】email newsletter
発行日 2025年3月11日 #1198
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