丹波紀行《鬼が行く道 001》片山通夫

「はじめに」

長年、もう半世紀以上も前、ボクは丹波と言う地名にあこがれていた。そのころの丹波はボクにとっては「不可思議な国」であり、遠く未知の国だった。毎日大阪駅では夕刻に蒸気機関車に引かれて急行が出雲の国へ行く。その途中で急行は篠山口と言う駅に停まるらしい。急行の名前は「さんべ」だったと記憶の彼方にあった。勿論ボクは「急行さんべ」には乗らない。この急行列車がどのような経路で出雲の国へ行くのかも知らなかった。ただ篠山口と言う、バス停のような名前の駅には停まるらしいことは知っていた。
篠山がなぜ篠山口なのかも無論知らなかった。ただ漠然と篠山口と言うからには篠山と言う山あいの村があるのだろうという程度だった。
ところが最近になって調べてみると、篠山口から福住というところまで、支線があった。1944年3月21日に開設されたが、残念ながら1972年3月1日には廃止されたらしい。戦争中、この辺りで採掘されたマンガンや珪石の輸送が目的だった。
ともあれ篠山線は廃線となり福知山線の篠山口と言う駅名だけが残っている。

急行さんべは島根県の三瓶山からつけられた列車名だ。三瓶山にはくにびき神話という面白い話がある。出雲には「出雲風土記」があり、この風土記の冒頭に、出雲の創造神である八束水臣津野命(やつかみずおみつぬのみこと)が、出雲の国を広く大きくするために他の国から土地を引き寄せてつなぎ合わせて広くしたと言う。敷き寄せるのに「綱」をかけて引っ張ったらしいのだが、安定するまでその「綱」を三瓶山にひっかけたと言われている。なんとも乱暴だがスケールの大きい話だ。(続く)