沖縄・西表島(いりおもてじま)上原港の北東約2.5キロメートル、鳩離島(はとばなりじま)の北方約1.7キロメートルの海域に「バラス島(とう)」というサンゴの島があり、シュノーケリングや海水浴の観光ツアーで人気を得ています。ところがこの島は地図には載っていません。なぜでしょうか。バラスとは岩石を砕いた砂利のことで、バラス島はすべてサンゴの砂礫でできています。沖縄の透き通ったエメラルドブルーの海の上にサンゴの鮮やかな白さがまぶしく光る光景はまるで「天国に一番近い島」のようです。
バラス島が地図に載らない“幻の島”である理由を探してみると「満潮時に海面下に没することがある」「潮の流れや台風などで島の位置や形が大きく変わる」などが挙げられています。すなわち、海面上に出ている安定的な岩盤がなく、位置を特定できないことが原因のようです。バラス島はサンゴの殻が堆積してできているのでサンゴの殻が波浪や台風の影響を受けて数10m程度移動することがあるといわれます。
バラス島は東西方向に約1km、南北方向に約0.3kmの楕円形をした珊瑚礁(リーフ)の中央部にあり、海面下には成長速度が早い枝状のミドリイシ属が多数棲息しています。波浪によって壊され礫状になったこれらのサンゴが堆積したもので、鳩間島や西表島によって囲まれた海域なので外洋に流れ出ることが少ないようです。
空中写真を見ると、1963(昭和38)年にはバラス島の存在が確認されており、1994(平成6)年には2つの島になり、さらに2006(同18)年には南北に延びた1つの島になっています。衛星画像の分析では1998(同10)年から翌年にかけてバラス島が急速に拡大したと思われ、1998年に大規模なサンゴの白化現象がみられたことからその際に死亡したサンゴが礫となって供給されたのではないかと推測されています。このようなことからバラス島は「島が動く」とか「島が2つに分かれる」とか言われているのです。
バラス島を含む海域は2012(同24)年3月に「鳩間島バラス・宇那利崎海域公園地区」として西表石垣国立公園の海域公園地区に指定されました。
ちなみに石垣島と西表島のほぼ中間に南北方向に浜島と呼ばれる細長い砂州が存在します。潮の干満で面積や形状を大きく変えることからバラス島と同じように“幻の島”と呼ばれていますが、岩礁群の主たるものは常に海面上にあるため地図に掲載されています。