とりとめのない話《風と気配と地蔵さんと》中川眞須良 

その3  風向き地蔵(鵲地蔵)

かささぎ地蔵

【LapizOnline】気になる地蔵尊の一つである。世界遺産・仁徳天皇陵外周道路の西南角に西を向いて一体でひっそりと祀られているが、10年以上前にはこの場になかったお地蔵さんだ。御影石の祠は比較的新しく 道路向かいの古寺から何らかの事情で移されて来たのかもしれない。すぐ近くには民家がない。誰が管理、お世話をしているのだろう。気になるのはその立地条件、自然環境の劣悪さである。傍に民家がない、人の生活の匂いがない、すなわち日常に人との繋がりがない。さらに地蔵様が小さいがためか祠が小さい。いや小さすぎる。そして狭すぎる。高さ約55センチ、幅43センチ、奥行き25センチ。正面の囲いや仕切りもなし(地蔵さんが立っするスペース)。背中からの風(東風)を除きあらゆる方向からの風に吹き曝しである。冬は凍るように冷たく、訪れた酷暑のこの日は熱くて祠の石に触れることすら出来ない。もう少し陽が傾けば地蔵さん全身が夏の夕日に直射されオレンジ色のビニールコーティングの衣装が溶けそうな環境である。
前を通り過ぎる人のうち、立ち止まらずとも心の中で手を合わせる人の数はいかほどか?

「鵲地蔵尊」さ―ん!
寂しがらず、ふてくさらずに、この環境に耐えておくれ。前を通り過ぎる人々を見守リ続けておくれ。今日の自転車の私のように前に立ち止まり「お地蔵さん こんにちは!」と大きな声で挨拶をして行った人のことも覚えていておくれ。そして夏の風よ、もっと涼しさを連れて強めに吹き石の祠の熱気を少しでも冷ましておくれ。冬の風は少しでも緩く、そして春と秋の風よ、ゆっくり優しく何度もお地蔵さんの全身を包み込んでおくれ。

次に前を通り過ぎる時、花いけの水はたっぷりであっておくれ、線香の煙が漂っていておくれ。さらに私にそのはっきり見開いている目で「たまには立ち止まり手を合わせて行け!」と声をかけておくれ。

夕凪前の晴れた日に。