連載コラム・日本の島できごと事典 その143《住民投票》渡辺幸重

ミサイルが配備された陸上自衛隊石垣駐屯地

2018(平成30)年10月31日、沖縄県石垣市で石垣市自治基本条例に基づく住民投票を直接請求する市民の署名活動が始まりました。内容は、石垣島の於茂登岳(おもとだけ)麓に陸上自衛隊駐屯地を建設するという計画への賛成・反対の市民の意思をはっきりさせる住民投票の実施を石垣市に求めるものです。「石垣市住民投票を求める会」は11月30日までの1ヶ月間の署名期間内に住民投票請求の要件である有権者の4分の1を超える1万4,263筆の署名を集めました。これは有権者の約37%にあたります。

市民側の請求に対して石垣市当局はこれに応ぜず、住民投票を拒み続けました。2019(同31)年2月1日には臨時市議会で住民投票そのものが否決されてしまいました。そのため住民投票の会は2019(令和元)年9月19日、石垣市を相手とする「住民投票義務付け訴訟」を那覇地裁に提起したのです。結果は、2020(同2)年8月27日の那覇地裁第一審判決で原告の訴えが却下され、翌年3月23日の福岡高裁那覇支部控訴審判決で控訴棄却、その年の8月25日の最高裁判所判決で上告棄却(上告不受理)となり、住民側の敗訴となりました。

この最高裁判決に先立つ4月26日、住民側の有志3人が、住民投票に投票することができる地位の確認、石垣市長が住民投票を実施しないことが違法であることの確認などを求め、公法上の地位の確認訴訟である実質的当事者訴訟を那覇地裁に起こしました。2023(同5)年5月23日の那覇地裁の第一審判決で棄却され、翌年3月12日の福岡高裁那覇支部の控訴審でも棄却となりました。市民側は上告し、現在も最高裁において係争中です。

2009(平成21)年に制定され翌年4月に施行された石垣市自治基本条例は「市政運営の最高規範」とされ、住民投票の規定では「所定の手続を経て、住民投票を実施しなければならない」と明記されていました。市長は住民投票条例を市議会に提出し、否決されましたが、かつての市の解説では「市民から有権者の4分の1の連署により住民投票実施の請求があったときは、市議会の議決に付することなく、必ず住民投票を実施する」としていました。しかし、現在の中山義隆市長は住民投票の実施義務を果たしていません。

市長を支持する市議会与党は住民投票に反対し、2021(令和3)年6月28日、自治基本条例改正案を議員提案し、住民投票の規定や同条例を最高規範と位置付ける規定を削除してしまいました。市と係争中の住民投票を求める会や野党は「住民投票つぶし」と激しく反発しました。地位確認訴訟(当事者訴訟)の第一審判決はこの条例改正を受けて「すでに無い条例の法的な地位の確認はできない」という棄却でしたが、控訴審判決は法の不遡及の原則からこれを否定し、棄却の理由は「住民投票の実施義務があるとは解釈できない」というものでした。

自治基本条例は「前市長が条例の制定を宣言して制定されるまでの2年半、幅広い見地から丁寧に議論されてつくられた」のに「今回はたった5回の委員会でそれが廃止と結論づけられた」(八重山毎日新聞)そうです。本来は住民自治の権利を保障するために不十分な部分があれば補強しながら自分たちの島のことは自分たちで決めるという自治意識を高めて行かなければならないのに、簡単に廃止されたことは私としても非常に残念です。今後の裁判や住民運動に注目したいと思います。

陸上自衛隊石垣駐屯地は住民の反対運動が展開される中で2023(同5)年3月に開設されました。