連載コラム・日本の島できごと事典 その141《リュウキュウアユ》渡辺幸重

リュウキュウアユ(ホライズン「奄美大島の川」サイトより)

【LapizOnline】国立環境研究所の「侵入生物データベース」サイトでリュウキュウアユの分布図をみると、奄美地方が「自然分布」、沖縄島周辺が「外来分布」となっています。リュウキュウアユは元々奄美大島と沖縄島に自然分布していたはずなのにこの違いは何なのでしょうか。

 実はリュウキュウアユは沖縄島では源河川を含め北部西海岸に注ぐ11河川に生息していました。ところが1978(昭和53)年に採集されて以降採集や発見の記録がなく、沖縄地方の在来個体群は1980年前後に絶滅したと考えられています。絶滅の原因としては、ダムの造成や堰堤の建設による生息可能域の減少、宅地開発や森林伐採に伴う土砂流入や生活雑排水の流入による水質悪化などが指摘されています。「沖縄戦後の乱獲や流域の開発による赤土流入」「日本復帰にともなう急速な開発」も挙げられており、時代の変化による影響も見逃せません。

分布図:国立環境研究所サイトより

 1990(平成2)年、リュウキュウアユを再び沖縄に復活させようと名護市源河区が「源河川にアユを呼び戻す会」を、琉球大学の研究者が「リュウキュウアユを蘇生させる会」を結成しました。気運が高まる中で1992(同4)年、奄美大島産のリュウキュウアユの稚魚が福地ダムと安波ダムなど3カ所に放流され、その後も引き続き他の箇所も含めて多くのアユが研究者と地元民の手により放流されました。

 リュウキュウアユは本来、海と川を往き来する両側回遊型の魚です。沖縄島では放流によりダムと上流河川との間を回遊する陸封型のアユの定着はみられるようになりました。しかし、海と川を回遊する生活史を持つ個体の定着までには至っていないということです。

 なお、生物は遺伝子(DNA)を持っており、同じ種でも生息域が異なるとDNAの変化が見られることがあります。一般に同種の動植物でも生息域を超えて移されるとDNAの交雑すなわち「遺伝子(DNA)の攪乱」が進むので原則としてやってはいけないことになっています。今回のリュウキュウアユの場合、仕方がないこととはいえ、元の沖縄島産のアユとDNAが異なる奄美産が移入されているので完全な自然復元とは言えないのです。冒頭で述べた「自然分布」と「外来分布」の違いはこれによります。

 奄美大島では住用・伊須湾域と焼内湾域に棲むリュウキュウアユの間に交流がなく遺伝的分化が進んでいるということです。

「リュウキュウアユを蘇生させる会」によると、最初に移入されたのは高知大学で飼育されていた稚魚で、翌年に放流されたのは和歌山県の水産試験場で飼育されていた稚魚だそうです。私は確認できていませんこれが、いずれも奄美大島産だったということなのでしょう。

 ちなみにリュウキュウアユは東アジアから日本列島に生息するアユの亜種で、100万年前に交流が途絶えたと推定されています。なお、沖縄本島産のリュウキュウアユの個体がホルマリン固定された標本として国立科学博物館に保存されています。