◆◇現代時評《梅雨》片山通夫

【609studio】梅雨真っただ中である。以前は「男性的な梅雨」などと激しく降って、あくる日にはカラッと晴れる梅雨だとか、「カラ梅雨」と言って雨がまったくと言って降らない梅雨をこう呼んだ。しかし「男性的な梅雨」と言う表現は「セクハラ」だということかどうかわからないが、既に姿を消した。「カラ梅雨」はいわゆる梅雨であろう期間にもかかわらず雨の降らないことを表現する。こちらの呼び名は健在のようだ。

古来、季語が梅雨、もしくはこの季節の雨をテーマにした俳句は多い。また梅雨を表現した言葉も多い。

例えば、入梅前の梅雨は「走り梅雨」、雨が少ない梅雨を「空梅雨」または「旱(ひでり)梅雨」、激しい梅雨の雨を「荒梅雨」。 ほかにも「梅雨の月」「梅雨の星」などがある。日本語の豊かなことよと思う。もっとも外国の言葉を知っているわけではないし、梅雨そのものも外国にはあるのかないのか・・・。

走り梅雨山の匂ひを近うせり 岩田沙悟浄
杉苗のかたまり匂ふ走り梅雨 藤原輝子
走り梅雨思ひ出残る腕時計  中村幸子

梅雨寒や砂場に下りし鳩の群れ 高村洋子
ちぐはぐに着て梅雨寒の間に合はせ 大柿春野
山近き駅舎ぽつんと梅雨寒し 岩田育左右

薄月夜 花くちなしの 匂いけり  正岡子規
五月雨をあつめて早し最上川   松尾芭蕉 

梅雨には様々な風景がある。
今日この頃の梅雨は「豪雨」とか「線状降水帯」と言って悲しい程無機質な表現でしかない。せめて俳句の上だけでも麗しい季節を感じたい。
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