連載コラム・日本の島できごと事典 その137《台風上陸》渡辺幸重

台風経路図

【LapizOnline】四国の西側に細く延びる佐田岬半島(愛媛県)を台風が襲ったことがありました。初めテレビは「四国に上陸」と言っていましたが、翌日には「佐多岬半島を通過」と言い換えていたので「アレッ」と思ったことがあります。また、私が生まれ育った島は台風銀座にあり、台風の目にすっぽり包まれたことがありました。吹き荒れていた大風がパタッと止み、静かな快晴の空になったあと風向きが変わってまた大風に戻りました。それが台風の目だったのです。私は「台風が島に上陸した」と思ったのですが、それは“上陸”ではありませんでした。

気象庁は台風の上陸は「台風の中心が北海道・本州・四国・九州の海岸に達した場合」にのみ使用し、「台風の中心が小さい島や小さい半島を横切って、短時間で再び海上に出る場合」は“通過”と呼びます。佐田岬半島や私の島の場合は通過だったのです。島では中心が横切ったかどうかわからない場合が多いので「付近を通過」とされることがほとんどです。また、気象庁は「台風の中心が半径300km以内の域内に入る場合」を“接近”と呼んでいます。気象庁の統計を見るとき、台風の上陸数では北海道島・本州島・四国島・九州島の主要4島に上陸したことしかわからないので、台風全体の動向は<台風の中心が奄美地方(鹿児島県)・沖縄県のいずれかの気象官署等から300 km以内に入った場合>の「沖縄・奄美に接近した台風」の数なども見る必要があります。

台風銀座の琉球弧(南西諸島)では稲作が台風被害を受けないように早生種の栽培をしています。私が育った屋久島(鹿児島県)では8月初旬に稲刈りをしますが、それでも子どもの頃、稲刈り前に台風が襲来し、大風の中で倒れた稲を起こしたり、台風が過ぎた直後にあわてて稲刈りをしたことがありました。倒れて水につかった稲が芽を出すと食べられなくなってしまうからです。
石垣島など沖縄地方では年に2回稲を栽培する二期作が行われています。1回目の稲刈りは5月から6月にかけて、2回目は11月以降に行われます。台風シーズンをうまく避けている智恵に感心します。