連載コラム・日本の島できごと事典その135《離島甲子園》渡辺幸重

村田兆司さん(離島甲子園公式サイトより)

【LapizOnline】「甲子園」というと春と夏の全国高校野球大会を思い浮かべますが、「離島甲子園」と呼ばれるイベントが毎年開催されていることをご存知でしょうか。正式には「国土交通大臣杯全国離島交流中学生野球大会」といい、全国の島から中学生の軟式野球チームが参加してトーナメント方式で試合を行うもので、島の若者が交流し、人材育成や地域振興につながっています。離島甲子園は“まさかり投法”で有名な元プロ野球選手の村田兆司さん(1949-2022)の提唱で始まり、村田さんがライフワークとしたことでも知られています。

離島甲子園は、2005(平成17)年から一部の島で始まった「国土交通大臣杯離島交流中学生野球大会」を前身とし、2008(同20)年に対象を全国の島に広げ、「国土交通大臣杯全国離島交流中学生野球大会」として第1回が東京の伊豆大島で開催されました。その後新型コロナの影響によって2020(令和2)年から2年間の中止がありましたが、第15回大会が2024(同6)年8月19日~23日の日程で壱岐島(長崎県)で開催されることになっています。第14回大会の参加は26自治体 25チームに上っています。

離島甲子園の推進役であった村田さんはプロ野球を引退した翌年の1991(平成3)年、野球少年の親の要請を受けて粟島(新潟県)を訪れました。これが島との付き合いの始まりでした。島の人口500人(当時)、野球部員15人というスポーツをするには厳しい現実の中にいる子どもたちを見て、逆境に負けずに立ち向かうための夢や希望、勇気、挑戦する心を伝えたい、と思ったそうです。村田さんはそれから手弁当で全国の島を訪ね、少年野球教室を開きました。「剛腕・村田兆治、島を行く」と銘打ち、北は北海道の利尻島や礼文島、南は沖縄県の与那国島まで全国50カ所の島で計100回の野球教室を開催し、子どもたちに正しい練習の仕方や心の持ち方などを教えたそうです。

離島甲子園は<野球を通じて「島」と「島」の交流を図る>をモットーにし、トーナメント戦以外のイベントも行っています。たとえば初戦に負けても敗退チーム同士で行う交流試合やプロ野球OBによる野球教室、日本プロ野球選手会による「キャッチボールクラシック(キャッチボールの正確さとスピードを競うゲーム)」大会、さよならパーティなどです。

離島甲子園出身のプロ野球選手も生まれました。2021年育成ドラフト6位で巨人に入団した佐渡島出身の菊地大稀投手です。2023年のシーズンでは4勝4敗11ホールド1セーブの成績を残しました。村田さんから贈られた「夢を諦めない」という言葉を心に秘め、活躍しています。