伊豆諸島と小笠原諸島の間の海上に天に向かって直立する大きな岩があります。孀婦(そうふ)岩と呼ばれるその岩を見たとき私は神々しさを感じました。信仰深い昔の人はもっと感じたことでしょう。全国には矛先のように屹立する大小の岩礁を「立神」と呼んで信仰や神話の対象としているところがたくさんあります。
『日本の島事典』(三交社刊)の「索引」で「立神(たちがみ/たてがみ)」という言葉が入っている岩礁・小島を調べたところ33ありました。立神という呼び名以外に立神島、立神岩、東ノ立神などと使われており、鹿児島県が22ヶ所ともっとも多く存在します。十島村・三島村、奄美群島に多いのが特徴的です。
奄美大島・瀬戸内町の西古見漁港の南西に位置する無人島群は立神島(たちがみじま)と呼ばれており、南北に連なる高さ28~30mの3島がネィトヌタチガミ、ナハンタチガミ、ウキヌタチガミとして西古見集落の聖地になっています。奄美市・名瀬港の北にある高さ29mの立神(たちがみ)は奄美の守り神・海の神として航海の安全を祈る信仰の対象になっており、山下清の「名瀬市風景」や田中一村(いっそん)の「クワズイモとソテツ」にもその姿が描かれています。
瀬戸内海東部に目を移すと大きな存在感を示しているのが淡路島(兵庫県)で、その南東に沼島(ぬしま)があります。この島の急峻な海岸部には多くの奇岩・巨岩・岩礁が見られ、島の南東海岸には高さ約30mの巨岩がそびえ立っています。これが国生み神話の「天の御柱(あめのみはしら)」ではないかといわれている沼島のシンボル「上立神岩(かみたてがみ)」です。
国生み神話では、イザナギとイザナミが自分たちが作ったオノコロ島に降り立ち、八尋殿と天の御柱を建てました。そして天の御柱の周りを回って鉢合わせをしたところで夫婦となって国産みを行ったそうです。その天の御柱が上立神岩というわけです。なお、沼島の南岸にはウミウが渡来して越冬する下立神岩があります。
島の周りには小さな岩でも信仰の対象になったり、漁業や海運、気象などの面で大きな役割を担っているものがたくさんあります。なにげない島の風景に隠された小さな物語にも注目してみてください。