何しろ半世紀以上も写真を撮っていたのだから数だけは膨大なフィルムが残っていた。ただ残念ながら湿気とカビに侵されたフィルムもたくさんあった。いまだかな白状するとコロナ以前には見るのも恐ろしかった。そんな時、新型コロナウイルスが世界を襲った。外出禁止まがいの情報が錯綜する中で「この状態から抜け出せないなら」とフィルムの山に向かうことにした。エチルアルコールはコロナ以前に買ってあった。やわらかい綿にアルコールを浸してフィルムをこすってカビを落とした・・・つもりだった。何かのCMで見たのかもしれないが「頑固な汚れに…」というフレーズが思い浮かんだ。とれないのだ。カビが。そのうち意地になって擦る、こする…。 とれない…。汚れはがんこだった。
なんだかいい気分になってきた…。エチルアルコールで。つまりラリってきた。
急いでベランダのガラス戸を開いて換気した。
フィルムに生えたカビの頑固さよ。