永岡桂子文部科学相は22日、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に対して質問権を行使した。旧統一教会に対する解散命令を裁判所に請求できるかどうかの調査として行われたもので、これに先立ち、岸田文雄首相は被害者救済に向けての新たな法案を今国会に提出する方針を表明した。こうした中で浮上したのが、宗教団体が行うマインドコントロールがどこまで許されるか、である。信仰は言うまでもなく個々人の心問題だ。憲法が保障する信仰の自由とは何なのか。1946年11月に公布されて以来初めてといえる憲法上の難問である。 質問権は1996年に施行された改正宗教法人法に規定された。教団や信者らの不法行為責任を認めた民事訴訟の判決が22件あり、損害賠償額が少なくとも14億円に及んでいることから、初めて質問権を行使。同教団に対し、組織運営体制や財務状況についての報告を求める文書を送付した。宗教団体の目的を著しく逸脱した行為――などが確認できれば、文科相は解散請求をするという。
一方、岸田首相は11月9日、旧統一教会問題に関して記者会見を行い、被害者救済に向けて、被害者本人だけでなく家族も救済可能とする新たな法案を今国会に提出する方針を表明。しかし、野党が要求している、マインドコントロール下での悪質な献金要求への規制については、首相は明言を避けた。
『大辞泉』によると、マインドコントロールとは「宗教などが独自の手段によって、信者の人格・精神を変革・統制すること」である。憲法は信教の自由を保障している(第20条)。信教とは、ひとことで言えば、ひたすら神や仏を信じることによって、心の安寧を得ることだと私は考えている。宗教団体はそう信じることが正しいこととして布教する。神や仏の教えを説くいじょう、マインドコントロールと全く無縁ということはあり得まい。
問題となるのは「宗教団体の目的を著しく逸脱した
マインドコントロールであろう。したがって、旧統一教会が行ってきたマインドコントロールが、「宗教団体の目的」として合理的であったかどうかがまず判断されなければならない。でなければ、マインドコントロールはおしなべて悪、したがって宗教はおしなべて悪、といった方向に世情が流れ、結果として信仰の自由を奪うことになりかねないからである。
旧統一教会がマインドコントロールを行う際の独自の手段とはどのようなものであろうか。
旧統一教会は文鮮明氏が1954年、ソウルで「世界基督教統一神霊協会」を創設したのが始まり。文氏は1956年、切手収集の経済活動を行い、1958年、北朝鮮の脅威を懸念して「統一産業」を設立、銃器製造を始めた。こうした経歴からわかるように、スタートから布教とはいえない活動をしていた。統一教会問題の取材をつづけてきたジャーナリスト、有田芳生氏の著書『統一教会とは何か』(大月書店)によると、1967年、朴正煕政権下、「共産主義に勝つ」ことをスローガンとして教団は政治に強くかかわりだした。
同年、文鮮明氏が来日、笹川良一氏らが出席して第1回アジア反共連盟結成準備会が開かれ、勝共運動を日本でも受け入れることで一致。68年、笹川氏を名誉会長に国際勝共連合を結成、岸信介元首相が発起人として名を連ねた。有田氏によると、教団は日本で活動を始めた初期の段階から岸氏と関係を深めており、その関係は娘婿の安倍晋太郎・元外相、その次男の安倍晋三元首相へとつづいた。2021年9月、教団の関連団体「天宙平和連合」主催のイベントに安倍晋三氏がビデオメッセージを送ったのは、その証左といえよう。
宗教団体が政治と関係をもつことじたいはそう珍しくない。旧統一教会の場合、スタート当初の文氏の活動に見られるとおり、政治活動に併せて資金集めに力を入れ、霊感商法や詐欺同然の募金活動を活発化させた。その資金は香港の銀行を通じて北朝鮮に流れたといわれる。日本国内では「風水講習会」などを開き、「あなたならできる」と語りかけ、「信じて待ちましょう」などと安心させて、印鑑や水晶を買わせた。こうし手口で集めた資金は、1987年に全国霊感商法対策弁護士連合会が結成されてから2021年までの間、総額1237億円にのぼったという。
「勝共」がなぜ北朝鮮への送金なのか不可解だが、文教祖の野望である「世界的な『政教一致国家』の樹立」と関係があるのであろう。文教祖を「再臨のメシア」として尊崇させてきた旧統一教会である。マインドコントロールは「教祖野望の一手段」とみられてもやむをえまい。
旧統一教会が行ってきたマインドコントロールが「宗教団体の目的を著しく逸脱した行為
と判定されれば、文科相は解散命令を裁判所に請求しなければならない。逆に言えば、この判断を避けることは、旧統一教会の解決を避けることに等しい。岸田政権にそれが可能であろうか。
文教祖は2006年、安倍晋三氏が第1次政権の首相に就任して1週間後、「安倍が首相になったと聞いている」と発言、有力信者に「その(安倍氏の)秘書室長はだれだ」と尋ね、安倍氏と接触を重ねるよう求めた(11月8日付毎日新聞)。この事実から分かる通り、教団は安倍派を中心にわが国の保守政界に浸透。今年9月現在、萩生田光一・自民党政調会長ら10人が旧統一教会主催の会合に出席するなど、同党国会議員179人が教団に接点があった。
信仰はすでに述べたように信者ひとり一人の心の問題である。その純粋な心に政治家が手をつっこんだのである。仮に意図しなかったとしても許されることではない。教団がマインドコントロールをするうえで、政治家の支援が何らかの後押しになった可能性を否定できないからだ。旧統一教会のマインドコントロールの是非を判断することは、安倍氏をはじめ自民党の闇世界をさらけ出すことにほかならない。
岸田首相が旧統一教会のマインドコントロール問題を避けることは断じて許されないのである。