現代時評《ロシアのインフラが危ない》片山通夫

ロシアでは最近旅客機はソ連時代のイリューシンからエアバスやボーイングにシフトしてきた。筆者も以前はサハリンへ行くのにアントノフ24(写真)と言うバスのように小さいプロペラ機(ターボプロップ)で通った。ところがある時から夏季にはボーイングに変更になった。ユジノサハリンスクの航空会社の窓口の女性は「機材はボーイングよ」といささか得意げだったことを覚えている。アントノフはウクライナの航空機製造会社だ。ロシアの侵攻後にロシア兵が「史上最大の重航空機」にして「史上最も重い航空機」であり、「現存する世界最大の航空機」であるアントノフAn-225を大破させたことは記憶に新しい。

余談はさておき、ロシアのウクライナ侵攻で西側諸国によるロシアへの経済制裁で思わぬところで影響を受けているのがインフラだ。航空機を例にとってみると、先に述べたようにエアバスやボーイングと言った西側の機材が使われている。ところが経済制裁によって航空機のメンテナンス部品が入らなくなった。定期的に交換しなければならない部品が入らないと航空機の安全は保証できなくなる。これは重大事故につながる恐れがあることは自明の理だ。以前筆者がウクライナのキエフ空港でヘリコプターを待っていたことがある。チェルノブイリの取材だった。ところが一向に搭乗出来ない。2時間も待っただろうか。ようやく乗ることができたが、本来乗るはずの機材に不具合が生じたらしい。そこで同型機のパーツを外して取り付けるのに時間がかかったと言う。
今、ロシアではそのような事態があちこちで発生しているのではないかと思う。経済制裁は思わぬところで思わぬ結果を生む。ロシアの新幹線にも影響が出ていると朝日新聞が報じた。新幹線の車両を製造するドイツのシーメンスが、ウクライナ侵攻によってロシアから撤退した。この鉄道は、サンクトペテルブルグ出身のプーチンの肝いりでモスクワ⇔サンクトペテルブルク間を走る。朝日新聞によると「存続の危機」らしい。
このような思わぬ事態がロシアでも起こっている。いや戦争が長引き事態が今以上に悪化すれば、ロシアの社会は混乱を極め、国民のプーチンへの不満が爆発する可能性も大だ。

そういえばまだソ連崩壊の記憶も新しかった2000年頃のサハリンでは誰もロシアの銀行やルーブルそのものを信用していなかった。一方でソ連時代と違って海外へ行くことがそれほど難しくなくなった。そこで目を付けたのが外国人の財布だ。と言っても泥棒やすりをするわけではない。外国の旅行者にとって必要なルーブルを銀行でなく、個人で外貨と交換して「タンス預金」する。そしてそれを貯めていつかは外国へ出かけるという遠大な計画をロシア人たちはたてていた。しかしウクライナ侵攻以前の生活を知ってしまった庶民はどの様に感じるのかはわからない。