現代時評《ロシア軍のウクライナ国民排撃レイプ》井上脩身

ロシアがウクライナに侵攻を開始して3カ月余りがすぎたが、戦争が長引くにつれ、民間人に対する殺害などのロシア軍兵士の犯罪行為が次々に明るみに出ている。こうしたなか、信じがたい報道に接した。ウクライナの女性に性交渉を嫌悪させ、結果とし子供を産まなくなることを目的に、ロシア兵がレイプを行っているというのだ。レイプは女性の尊厳に対する卑劣な行為であるが、加えてウクライナ国民としての尊厳そのものを切り裂き、さらには将来生まれるであろう子供をも抹殺する″ウクライナ人全否定レイプ″である。プーチン大統領がいかにウクライナ戦争を正当化しようと、「悪魔の集団犯罪」というほかない。

この報道は5月10日付毎日新聞のコラム「火論」の中で取り上げられた。執筆者は2年連続新聞協会賞の受賞歴がある大治朋子記者。概要は以下の通りである。
ウクライナのメディアによると、兵士によるレイプは4月の前半に市民団体に情報が寄せられた被害だけでも約400件。首都キーウ(キエフ)近郊のブチャでは14~24歳の女性約25人が民家の地下で繰り返しレイプされてうち9人が妊娠した。ロシア兵は女性たちに、このレイプで今後、彼女らが性交渉を嫌悪するようになり、子供を持てなくするのが狙いだと語った。
大治記者はロシア兵のレイプ目的について、「『敵』の子孫の繁栄を阻むため」と表現。ウクライナ人の子供をつくらせないためにレイプしたというのである。
大治記者は「犠牲者の一部は殺されていない」としたうえで「レイプの傷が刻まれた女性をあえて生かすことで、人々に癒えることのない傷と恐怖を刻み込む。それこそがウクライナ社会そのものへの凌辱」と書く。
子供を産めないようにするためのレイプ例はあるのだろうか。調べてみると「アカイエス事件」に行き当たった。1944年、東アフリカのルワンダで50~100万人の市民が虐殺されたジェノサイドについて、国連安保理事会によってルワンダ国際刑事裁判所(ICTR)が設立され、アカイエスという元タバ市長が裁かれた。アカイエスは影響力があり、住民は彼を尊敬、命令に従ったという。
裁判で被害者が「見つけ次第強姦する」と言われたと証言。多くの女性が繰り返し強姦されており、組織的なレイプであることが判明。アカイエスが「唯一の敵を除去するために協力するように」と住民に呼びかけており、実際、レイプの多くはタバ市庁舎の中や近くで行われた。
強姦された女性が、その結果子供を産むことを拒否するようになること、恐怖やトラウマから子供を産めなくなることから、強姦も虐殺などと同様、ジェノサイドの要素とされている。ルワンダのフツ族とツチ族との戦いのなか、フツ族がツチ族を抹殺の手段として公然レイプを犯したとして、アカイエスはジェノサイドの罪で終身刑が言い渡された。
ウクライナ人女性に子供を産ませないために行ったロシア兵の犯罪は、ルワンダでのおぞましい事件と基本的に何ら変わらない。大治記者は「ウクライナ社会への凌辱」と書いたが、「全女性への凌辱」でもある。愛の喜びである性を汚らわしいものにするという点で「人間への凌辱」であり、子供が生まれてこれないようにするという点では「未来への凌辱」でもある。
ルワンダ大虐殺ではアカイエスが裁かれた。ロシア兵のレイプについて本当に裁かれるべきは誰であろうか。
ロシアのプーチン大統領は4月18日、ブチャを攻略したロシア軍兵士の「英雄行為」をたたえ、名誉称号を与えた。英雄行為のなかに、レイプも入っているのであろうか。
プーチン大統領は5月9日の戦勝記念日の演説で「我々の責務はナチズムを倒すこと」と述べた。ナチズムがユダヤ人排撃思想であったことはまぎれもない。「ナチズム打倒」を名目にウクライナ国民排撃戦争に打って出たプーチン大統領。裁かれるべき者はだれの目にも歴然としている。