現代時評《ノーベル平和賞に思う》片山通夫

今年のノーベル平和賞が先週発表された。朝日新聞の10月9日付の朝刊には「 強権批判、2記者にノーベル平和賞 フィリピン・ロシア 屈さず報道、表現の自由守る」と一面TOPで報じられていた。

【オスロ共同 2021/10/9 09:20 (JST)】ノルウェーのノーベル賞委員会のレイスアンデルセン委員長は8日、共同通信の取材に応じ、世界各地で報道機関への弾圧が強まり「表現の自由は今や絶滅危惧種となっている」と警鐘を鳴らした。ロシアとフィリピンで強権政治と対峙する2人のジャーナリストに平和賞を授与することで「民主主義発展の土台」となる報道の重要性が一段と明確になることに期待を示した。委員長は「社会の平和的発展に不可欠な価値をどのように守るかという点で、世界的な基準を打ち立てた」と評価。「困難な状況下で事実を記録し、伝えてきた」と2人の取り組みをたたえた。

これらのニュースを伝えるわが国の報道各社の記者はどんな思いでこのニュースに接し、このニュースを伝えたのか、筆者にとっては興味はそこにある。

忖度しまくった安倍政権、菅政権時代は終わった。大いに疑問だが、岸田首相は「わが日本政府は新たに出直す」そうだ。
それならまず首相の記者会見の方法を変えてゆくべきだ。内閣記者クラブ会見の相手にせず、自由に誰(フリーの記者や外国人記者も含めて)でも質問し回答を引き出す形の新たな調整機関が望ましい。回答に手間取る困難な質問にもこたえられるような人材を首相に据えるべきである。最も安倍元首相のように、国会で話した内容に合わせるために資料の改ざんや隠ぺいをする官僚などもってのほかである。そういえば、映画「新聞記者」の例にも今のところ大きな変化はわが国では見られない。

こうして考えてみると「フィリピンやロシアほどではない」などと思いがちだが、大きな間違いだ。かつて故大宅壮一氏がテレビを指して「一億総白痴化」といった。今やテレビどころではない。大新聞も同じである。
フィリピンやロシアは記者の命や所属する会社の存続にかかわるほど危険だが記者たちは果敢に報道し続ける。
もって範とすべきである。

話は飛ぶが、桐生悠々(きりゅうゆうゆう)という方をご存じか?
簡単にかくと彼は明治から昭和期のジャーナリストで評論家だった。そして 「信濃毎日新聞」主筆を務めた。
https://bit.ly/3FuB9NW

彼を書いた書物がある。(写真)
《新聞記者・桐生悠々 忖度ニッポンを「嗤う」》  黒崎正己著
北陸朝日放送(HAB、本社・金沢市)報道担当部長。ISBN:9784768458662

書籍紹介に「抵抗のジャーナリストが鳴らす令和への警鐘!明治末から昭和初期にかけてファシズム批判を展開し、信濃毎日新聞主筆時代に書いた社説「関東防空大演習を嗤(わら)ふ」が陸軍の猛反発を招いたことで知られる石川県出身のジャーナリスト・桐生悠々の評伝。本文中の俳優・中村敦夫氏発言「彼が警告していることは、まさに今ね、びしびしと現代社会に当てはまるようなことを言ってんですよ。要するに、全然人類社会は進歩していないじゃないか。桐生悠々は未来、未来と言っているけど、未来は今ですよ」。本書を一読すると、悉くその先見性に驚かされる。」
https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-08-EK-0910229

わが国の記者も桐生先輩のような方もられた。他にも多くおられるだろう。是非頑張って欲しい。

今回のノーベル平和賞に関して、参考のために報道各社のWeb版の見出しを挙げておく。

「世界で言論が封殺されている」 にじむノーベル委員会の危機感(朝日新聞}
https://www.asahi.com/articles/ASPB87DZVPB8UHBI036.html?iref=comtop_7_01

ノーベル平和賞受賞のムラトフ氏が会見 同僚ら悼み「彼らのもの」(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20211009/k00/00m/030/022000c

弾圧で表現の自由に「危機」  ノーベル賞委員長、警鐘鳴らす(共同通信)
https://nordot.app/819304743392067584?c=39546741839462401

ノーベル平和賞にフィリピンとロシアの政権批判の報道関係者(NHK)
https://bit.ly/3ArMfzc