私が子どもの頃見た時代劇映画にはよく“猫の妖怪”が登場し、猫が美女に化けて屋敷に入り込み、夜な夜な行灯の油をなめるシーンがありました。猫には魔力があると教えられ、行灯に映る猫の影に怯えたものです。現代ではペットとして人間を癒やすために貢献しているようで、私の中でもすっかりイメージが変わりました。
“家猫(飼い猫)”“野良猫”“地域猫”という区別をご存知でしょうか。ある地域の住人が餌をやり、共同で面倒をみる猫を地域猫といいます。東京の谷中は有名ですが、日本には地域猫が多く住む“猫の島”がたくさんあります。ちょっと挙げるだけで、牡鹿諸島の田代島(たしろじま)、湘南の江の島、琵琶湖の沖島、瀬戸内海の真鍋島・青島・佐柳島(さなぎしま)・祝島、玄海諸島の加唐島、天草諸島の湯島、と次々に出てきます。猫好きな方は近くの島を調べてみてください。
その代表が宮城県石巻市の田代島です。なんといってもここには猫神社があり、祭神として猫神様(美與利大明神)が祀られています。猫の天敵である犬は飼ってはいけないといわれるほど徹底しているのです。
田代島ではかつて養蚕が行われ、カイコの天敵であるネズミを駆除してくれる猫が大事に飼われていたようです。そのうち、大型定置網(大謀網)によるマグロ漁が盛んになり、島内の番屋に寝泊まりする漁師と餌を求めて集まる猫が仲良くなりました。漁師は猫の動作から天候や漁模様を予測したそうです。“持ちつ持たれつ”のいい関係ですね。ある日、網を設置するための重しの岩が崩れて猫が死ぬ事故がありました。網元がねんごろに猫を葬ったところ、大漁が続き、海難事故もなくなりました。そこでその猫を猫神様として祀ったそうです。田代島には別の伝説もあって、いたずら好きの山猫が魚を盗んだり人間に危害を加えたり化かしたので、それを鎮めるために猫を祀ったともいいます。こちらの方は“猫の妖怪”のイメージに近く、祟りを恐れて祀る形になります。
東日本大震災のあと「田代島にゃんこ・ザ・プロジェクト」の取り組みが起き、全国の多くの愛猫家からカキ養殖再生のための募金が寄せられ、オリジナル猫グッズなどが謝礼として贈られました。また、ドイツの獣医師・クレス聖美さんは被災後の猫を心配して2ヶ月おきに来島し、ボランティア診療を続けました。震災後の動きは猫神様が島の守り神であることを証明しました。島の平和はこれからも長く続きそうです。