現代時評《サミット》山梨良平

ハノイで開催された米朝首脳会談。金正恩(キム・ジョンウン)北朝鮮国務委員長とドナルド・トランプ米大統領は失敗劇を演じた。いつも世界中で演じられるサミット=首脳会談は最後には「笑顔で」覚書などにサインして共同記者会見を演じる。

 しかしこのサミットはいささかそのおもむきがかわっていた。通常そのテーマでかなりのすりあせが行われるはずだった。いや、外部からはうかがい知れないが、熾烈な交渉が両国のスタッフ間で繰り広げられたはずだった。

 そしてサミット。そこでは握手と笑顔の首脳たち。難しい問題をまとめ上げることができた両国のスタッフ。満面の笑みで覚書を取り交わし、共同記者会見に臨む・・・。

 こんな筋書きは見られなかった。

 ところでウインストン・チャーチルをご存じだろう。そう、彼はイギリスの首相だった。1950年2月、冷戦中のソ連の首脳との会談をやってのけた。彼はその会談をサミットと呼んだ。サミット(頂上)に登ることも至難の業だが、そこから降りることもまた難しい。  

 ハノイで後の見通せない会談をやってのけた二人の首脳は今後のサミットをどの手から差し伸べるのか、興味は尽きない。

 ところで最近になって安倍首相が「次は私自身が金氏と向き合わなければならない」と述べ、拉致問題の早期解決に向け日朝首脳会談の実現に意欲を示したと産経新聞が報じた。(19年3月6日)。

 この報道を受けてかどうかは定かではないが、北朝鮮の朝鮮労働党機関紙、労働新聞は8日付の論評で、安倍晋三首相がトランプ米大統領に、ハノイで2月末に行われた米朝首脳再会談で日本人拉致問題を提起するよう要請したことを「主人のズボンの裾をつかんで見苦しく行動した」と名指しで非難した。

 これじゃ日朝サミットは絶望的かもしれない。