現代時評plus《書評『戦慄の対中国・日米共同作戦の実態 自衛隊の南西シフト』(小西誠著、社会批評社、2018年9月)》 フリージャーナリスト 渡辺幸重

昨年(2017年)10月の総選挙で自民・公明の与党が多くの議席を確保し、安倍一強体制を強固にしてしまったことが今どのような事態を招いているか、日本国民は自覚しているだろうか。
そもそも昨年の総選挙は解散の大義がないにもかかわらず、安倍内閣が北朝鮮の脅威をあおり、“国難突破解散”と銘打って強行した。そのときしきりに流されていた解散の根拠を私たちは忘れてはならない。アメリカと北朝鮮との間の緊張が高まり、年末にも緊急事態(北朝鮮がミサイルをグァム周辺に打ち込み、日米が反撃する)が起きそうだから、その前に選挙を行い、日本の政治体制を整えると言っていたのだ。その結果、日本はどうなったか。

総選挙の結果、政府・与党は絶対過半数を確保し、改憲への足がかりを固めた。一方、朝鮮半島情勢は、米朝首脳会談が決定したため一気に対話ムードに転換し、日本政府もPAC3の全国配備を解いた。にもかかわらず、安倍内閣はどさくさに紛れて無秩序に決めたイージス・アショアやイージス艦、オスプレイ、F35戦闘機などの武器の購入は推し進めたばかりか、沖縄・先島諸島から鹿児島・薩南諸島までを含む南西諸島全体に自衛隊を配備し、いまにも戦争を始めようとせんばかりの態勢を整えようとしている。そして、日米合同で離島奪還作戦を想定した軍事訓練を繰り返している。にもかかわらず、中央のニュースではこれらのことが十分に伝えられてはおらず、日本国民は、トランプ大統領と金正恩委員長の言葉のやりとりを冷や冷やして見ているものの、国内で着々と戦争準備が進んでいることを知る人は少ない。

本書は、鹿児島・薩南諸島から沖縄・先島諸島に至る南西諸島において、急ピッチで進められている自衛隊の配備状況を、220枚の写真と自衛隊の内部資料を示してリアルに紹介している。以下、主な内容を列記する(一部評者が追加)。

[与那国島(八重山諸島)]
・2018年3月、自衛隊が「与那国駐屯地」開設。約160人の陸上自衛隊与那国沿岸監視部隊等を配置。レーダー(インビ岳、久部良岳)、弾薬庫等を設置。海上自衛隊の掃海部隊もたびたび寄港。

[石垣島]
・自衛隊が於茂登前岳麓(平得大俣地区)に駐屯施設(対艦・対空ミサイル部隊、警備部隊約600人)建設を予定。弾薬庫4棟、射撃場、保管庫、広大な訓練場などを建設する計画。
・2018年3月、石垣市長選挙で反対派候補落選。石垣市は5月に住民との意見交換会を強行した物の参加者は反対派1人。反対運動により、建設の見通しは立っていない。

[宮古島]
・市民への自衛隊配備の直接説明がないまま2017年10月、自衛隊は「宮古島駐屯地(仮)」の建設に着手。
・2018年7月、敷地の造成工事がほぼ完了。駐屯地建築物の工事開始へ。
・対艦・対空ミサイル部隊(約250人)、司令部・警備部隊(約550人)の配備を計画。
・2018年1月、防衛省は保良地区(鉱山跡)に弾薬庫や射撃場などを建設すると発表。住民に対する説得工作を始める。
・2009年、宮古島レーダーサイトに対中国用の電波傍受装置を設置。
・2017年秋、宮古島レーダーサイトに新型のレーダーJ/EPS7完成(対弾道ミサイルの探知・管制が可能)。

[下地島(宮古諸島)]
・下地島空港の軍事使用(自衛隊、米軍)の可能性[奄美大島]
・防衛省が2地区(奄美市名瀬大熊、瀬戸内町節子)に自衛隊駐屯地建設を計画。
今年度末の開設をめどに造成工事が進められ、大熊地区では昨年10月下旬から、節子地区では昨年12月中旬から隊庁舎や宿舎などの建設が始まった。
・いずれも警備部隊が配置され、大熊地区には地対空ミサイル部隊、節子地区には地対艦ミサイル部隊が配備される予定。常駐人員は合わせて約560人。
・大熊地区は30ヘクタールあり、連隊規模以上の大部隊の駐屯が予定されている可能性。
・防衛省文書には「南西地域における事態生起時、後方支援物資の南西地域への輸送所要は膨大になることが予想」「薩南諸島は自衛隊運用上の重大な後方支援拠点」「薩南諸島は、陸自ヘリ運用上、重要な中継拠点」と明記。

[馬毛島(大隅諸島)]
・FCLP(空母艦載機着陸訓練/タッチ&ゴー)の移転候補地
・自衛隊の事前集積拠点・「島嶼防衛戦」の上陸訓練地
・F15、P3C、F35Bなどの「南西拠点基地」建設の情報

[臥蛇島(トカラ列島)]
・自衛隊が離島奪還作戦を行える初の訓練場を整備したいとの報道
[沖縄本島]
・2017年、航空自衛隊那覇の第83航空隊が第9航空団に昇格、F15飛行隊は40機態勢に増強
・2017年7月、航空自衛隊那覇の混成団が南西航空方面隊になり、昇格
・沖縄駐留の自衛隊は、2010年の6,300人から2016年の8,050に、1,750人の増加

筆者小西誠は、これらの動きを、対中国を意識した「自衛隊の南西シフト態勢」として捉え、全体像を正しく見つめようとしている。上記のような動きの結果、沖縄本島を含む南西諸島には約1万5千人規模の軍隊(自衛隊)が駐留することになる。さらに著者は「自衛隊は、3個機動師団、1個機甲師団、4個機動旅団の約3~4万人の増援-機動展開部隊を予定している」と言う。そして、「(これは)全自衛隊の半数を南西諸島へ動員する、文字通り、三自衛隊の総力をあげた『島嶼戦争』ということだ」と指摘している。中国側からみると、自衛隊(日本軍)に加えて、韓国・日本・フィリピンに展開するアメリカ軍の中国包囲網が急速に増強されていることになる。戦争がひしひしと近づいていることを感じる。

各地で地道な反対運動が展開されているのは救いである。この問題が全国で共有されて戦争を起こさない方向に進まなければならない。緊張感の中で一筋の光を見出す章が「第19章 先島―南西諸島の『非武装地域宣言』―かつて南西諸島は非武装地域だった」である。島々はどうすればいいのか。筆者は「先島-南西諸島は、政府・自衛隊が行おうとするこの『島嶼防衛戦』に対し、世界に向かって『非武装地域宣言』を行い、一切の軍隊の駐留を阻むこと」を提案している。評者はこれに全面的に賛成するものである。戦争への動きに対して、現実的な政策として国際法に基づく非武装地域宣言を対置する議論と運動の広がりを切に期待する。