現代時評《非核三原則抜きの首相挨拶》:井上脩身

安倍晋三首相は8月6日に行われた広島市の平和記念式典での挨拶で非核三原則には触れなかった。首相は「非核三原則堅持は当然のことだから言わなかった」と釈明したが、原爆投下70年という節目の年に敢えて非核三原則に触れなかったのは、特別な政治的意図があるからに相違ない。

安倍首相がアーミテージレポートの言いなりであることは本欄で再三にわたって指摘した。同レポートに従って非核三原則を骨抜きにしようとの首相の真意の表れとみるべきだろう。

記念式典で安倍首相は「唯一の被爆国として核兵器のない世界を実現する使命がある」と述べるなど、挨拶の中で3回も「核兵器のない世界の実現」という言葉を織り込んだ。「核兵器のない世界の実現」に向けてリーダーシップを執るのは日本の首相の当然の務めである。その日本の意思の表示として、これまで、歴代首相は平和記念式典で「非核三原則を堅持する」と世界に誓った。

非核三原則は1967年に当時の佐藤栄作首相が衆議院予算委員会の答弁で「核は持たず、作らず、持ちこませない」と述べたのが始まりだ。78年、衆議院で非核三原則を国是とすることが採択され、以降、各内閣は「非核三原則順守」
を表明してきた。この基本原則が揺るぎ出したのは2000年にアーミテージ元米国務副長官が「米国と日本 成熟したパートナーシップに向けての前進」と題するレポートの中で「集団的自衛権の行使禁止の撤回」を日本に求めたうえで、
日米同盟について「米英間の特別な関係がモデル」と、米英間のような関係になるよう要望した。米英関係というのは、イギリスがアメリカから提供された核ミサイルで核戦略を立てていることを指す。

はたして02年、福田康夫内閣官房長官がオフレコなが「非核三原則は国際情勢の変化で変わることがあるかもしれない」と語った。当時内閣官房副長官だった安倍氏が同レポートに強く影響されたことは、首相になって以降の安倍政治をみれば歴然としている。

「平時から緊張、危機、戦争状態まであらゆる事態において、米軍と自衛隊が全面協力できるための法制化を日本側の権限と責任で行う」との同レポートの提言にそった「切れ目のない」(安倍首相)安保関連法案を今国会に上程。既に衆
院を通過しており、首相は9月成立を目指している。やはり同レポートが求めている原発の推進についても、今月11日九州電力川内原発1号機を再稼働させて、“宿題”を果たしている。

こうした「集団的自衛と原発の夏」のなかでの「非核三原則無視」である。「日本は核武装できるだけの核がある」との声があり、「核武装すべきだ」との強硬論を吐く保守政治家は少なくない。非核の誓いをすべき平和祈念式典で非核三原則に触れない挨拶をすることは、「アメリカの戦争の協力、核開発、原発は一体のもの」とのメッセージと受けとめられてもやむを得まい。実際、それが首相の狙いなのであろう。

9日に長崎市で行われた平和祈念式典の挨拶では「非核三原則の堅持」を表明し、「非核三原則に触れなかった」との批判をかわした。恐らくこれも織り込み済みだったであろう。安倍首相は「非核三原則」という鎧の下に「非核三原則骨
抜き化」の衣を着こんでいるのである。安保法制が成立すると、安倍首相はいよいよ「非・非核三原則」に取り組むであろう。「積極的平和主義」の本質は「核による戦争抑止」だからである。