現代時評《GPS捜査判決を読み解く》:井上脩身

 

捜査対象者の車に全地球測位システム(GPS)端末を付けて居場所を把握するGPS捜査について、最高裁は3月15日の大法廷で「プライバシーを侵害し違法」との判決を下した。弁護団は「憲法の理念に沿った判断」と高く評価しているが、もろ手をあげて喜ぶわけにはいかない。

判決はGPS捜査のための「立法措置」を求めているからだ。テロ等準備罪という名の共謀罪の成立に躍起の政府はいずれ「GPS捜査法」を制定しようとするだろう。テロをしようとしていると疑われたら最後、捜査当局にこっそりとGPS端末が取り付けられ、しかもそれが合法とされる時代がやってきかねないのだ。今回の判決で権力側がGPS捜査をあきらめると思ったら大間違いである。

裁判になった事件は窃盗容疑の大阪府の男性について、同府警が2013年5~12月、この男性と共犯者の車やバイク19台にGPS端末を取り付けて捜査したというもの。令状のないGPS捜査が憲法、刑事訴訟法上許されるかどうかが争われた。大阪地裁は「令状のない捜査は違法」と判断。大阪高裁が「重大な違法はなかった」としたため、弁護側が上告していた。

最高裁はGPS捜査について「対象車両と使用者の所在と移動状況を逐一把握でき、プライバシーを侵害し得るもので、私的領域への侵入を伴う」と指摘。憲法35条(何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利)の規定には「私的領域に侵入されない権利が含まれる」と判断。その上で「GPS捜査は、個人の意思を制圧して憲法が保障する重要な法的利益を侵害する。刑事訴訟法上、特別の根拠規定がなければ許されない強制処分に当たる」と判示した。裁判官15人全員一致の意見だった。

新聞報道にはほとんど触れられていないが、判決のなかで注目されるのは「強制の処分では手続きの公正さを担保するため、事前の令状提示は原則であり、これに代わる公正担保の仕組みがなければ適性手続きの観点から問題が残る」と述べた点だ。法律用語が駆使されているので理解しにくいが、平たく言えば、「適切な令状がなければ適正な手続きとはいえない」ということだ。

刑事捜査に関して、大ざっぱにいうと「実態的真実主義」と「適正手続き主義」の二つの考え方がある。少しむりがあるが分かりやすくするために別件逮捕を例にとる。

警察が東京で起きた強盗事件の容疑者とみている人物を、大阪での軽微な寸借詐欺で逮捕した場合、強盗事件の追及が許されるか、が問題となる。この場合、真犯人を捕まえることに重きを置く実態的真実主義では適法な別件逮捕となり、被疑者の人権を重視する適正手続き主義では違法な別件逮捕になる。(実際にはこのように単純に割り切れる事件はほとんどない。あくまで参考である)

我が国の司法はおおむね実態的真実主義をとってきた。しかしさまざまな冤罪事件が起きる中、自白の強要など荒っぽい捜査手法への批判が高まり、「適正手続き主義をとるべきだ」との意見が専門家から強く出されるようになった。こうした流れをみれば、今回の判決は適正手続き主義に沿った内容のようにみえる。

だが、前述の判決の文脈中の「令状提示に代わる公正担保の仕組み」という文言はくせものだ。そうした「担保の仕組み」があれば令状がなくても許される、と読めるからだ。事実、判決は「(GPS捜査が)今後とも広く用いられ得る有力な捜査手法とすれば、憲法などに適合する立法的な措置が講じられることが望ましい」と、国に法整備を求めている。

判決後、弁護団は記者会見し「満額回答。非常に踏み込んだ判断」と絶賛した。恐らく十分に判決文を吟味していなかったのだろう。よく読むと、適正手続き主義の仮面をかぶっているが、「法律をつくりさえすればGPS捜査はできる」と言っているのである。

判決は新しい法律を作るに際して「憲法に適合するよう」とクギを刺している。これもまた一見もっともだが、憲法をなんとでも解釈する安倍政権である。人権をじゅうりんするGPS法を制定しても「憲法に合った法律」というだろう。

政府は「テロ等準備罪」を今国会で成立をさせる方針だ。普通の市民に対しても、テロの共謀をしたとして逮捕、起訴できる法律だ。これにGPS法が加われば、危なくて市民は車を運転することもできない。「そんなバカな」と言えないほど、安倍一強時代のいま、危険な時代に入ろうとしている。