[:ja]現代時評《トランプ大統領とペリー提督》:井上脩身[:]

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 アメリカのトランプ大統領は就任とともにメキシコ国境の壁建設、中東アフリカ7カ国の人々の入国禁止など、排他的大統領令に矢継ぎ早に署名し、1月31日には日本と中国を「為替操作をしている」と名指しで批判した。いずれも法的根拠や事実に基づかない不当な政策や主張だが、トランプ氏は沸き上がる批判の声にも意に介さない。人権を損なうこうした明白な不正義も、トランプ氏にとっては「アメリカの白人の正義」なのであろう。メキシコ、イスラム教徒の国、日本――トランプ氏がやり玉に挙げた国、地域に共通する人物が私の脳裏に浮かび上がる。黒船を率いたペリーである。トランプ氏にとっての「グレートアメリカ」とは、世界に乗りだそうとした19世紀のアメリカなのではないのか。トランプ氏がいう「アメリカを守る」はこうした国々を屈服させることに違いない。


 メキシコ国境の壁建設は選挙中にトランプ氏が第一に掲げた公約だ。アメリカには1100万人の不法移民がメキシコから流入しているが、トランプ氏は「不法移民が治安を脅かしている」と主張、3150キロの国境線のうち、柵のない約2100キロに壁を造るとしている。250億ドル(約2兆8400億円)との試算もある建設費についてトランプ氏は「メキシコに払わせる」と強弁。メキシコからの要望もなく建設した壁の費用をメキシコに請求できる権利があるはずがない。この当然の指摘に対し、「メキシコからの輸入品に関税をかけて建設費にする」と、トランプ氏はあくまで高圧的である。

 中東・アフリカ7カ国の入国禁止は、①シリア、イラン、イラク、スーダン、イエメン、ソマリアの7カ国への査証発給を90日間停止②シリア難民の受け入れを無期限停止、他国の難民受け入れも120日間停止――を内容とするものだ。この大統領令によって、アメリカの永住権がある人や正当にビザを取得している人までアメリカに入国できなくなるなど、大きな混乱が起きているが、トランプ氏は「テロからアメリカを守るため」と正当化している。しかしこの7カ国の出身者が大規模テロに関与したケースはない。イスラム教徒締めだしが真の狙いであることは明らかだ。

 為替操作批判については、トランプ氏が米製薬大手幹部との会合で「通過供給量や通貨安などでアメリカを出し抜いている」と述べ、日本と中国を悪者扱いした。日本は2011年11月以降為替介入をしておらず、政府は「批判は当たらない」と戸惑いをみせる。

 メキシコ、イスラム国、日本。一見全く無関係に見える。ところが冒頭に述べたようにいずれもペリーの足跡があるのだ。

ペリーは海軍少佐だった1824年、地中海艦隊の旗艦の副長に就任。艦隊の目的の一つはトルコがアメリカと条約を結ぶ意思があるかどうかを探ることだった。艦隊はアルジェ、チェニスに立ち寄り、トルコの都市イズミル近くに停泊した(宮永孝『ペリー提督』有隣新書)。その前年、モンロー大統領がアメリカ孤立主義を示す「モンロー宣言」を表明したが、その一方でイスラム教徒の国であるトルコに強い関心をもっていたのだ。

 1846年、米墨戦争が勃発し、ペリーはメキシコ湾艦隊司令長官としてメキシコ軍守備拠点を粉砕、アメリカの勝利に貢献した。この戦争によってメキシコ領の半分を得たアメリカは、大西洋から太平洋までの広大な国土をもつ国になった。さらにペリーは東インド艦隊司令長官として1853年、4隻の黒船を引き連れて浦賀沖に停泊、幕府に開国を迫った。ペリー来航については詳しく述べるまでもないだろう。

 こうしてみるとペリー当時のアメリカがもつ世界観が、170年後の今もDNAとなってアメリカの白人に脈々と流れ、トランプ氏がさらに荒っぽく実行しようとしていることがみてとれる。ペリーは黒船をバックに幕府官僚を威圧し、目的を遂げた。トランプ大統領がペリーを真似ているわけではないだろうが、有無をいわさず相手を屈服させる強圧的態度には共通するものがある。

 安倍晋三首相は10日、トランプ大統領との首脳会談に臨む。安倍首相は「言うべきは言う」というが、聞く耳を持つ相手ではない。安倍首相は、牙をむいて待ち構える狼の所にのこのこと出かける赤ずきんちゃんを演じようとしている。

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