現代時評先行投稿 「原発再稼働の真相」 井上脩身

九州電力川内原発1号機の原子炉に燃料が装着された。九電は8月中旬の再稼働を目指しており、福島第1原発事故後の再稼働第1号となる見通しだ。安倍晋三首相の原発推進政策の具現化であるが、その実態はアーミテージレポートを忠実になぞらえたに過ぎない。当欄で安全保障政策について同レポートに触れてきたが、エネルギー政策についても「原子力は日本の安全保障上欠かせない要素」として、原発再稼働を求めているのである。これまでに述べてきたように、アーミテージ氏はブッシュ政権の国務副長官だった政治家である。その提言はアメリカの国益の観点に立つものであることは言うまでもない。同レポートを下敷きにする安倍政治は「アメリカのための政治」といって過言ではない。

2012年に発表された第3次アーミテージレポートでは、「原子力エネルギー」の項目を立て、「日本はエネルギーの研究開発で世界的なリーダーとなっている」と、過去の原発推進実績を持ちあげた。その上で、「原発の再稼働がなければ2020年までに二酸化炭素(CO2)の排出量を25%削減することは不可能」と、原発が稼働されない場合のディメリットを挙げた。

これは、原発推進派の常套句というべきで、目新しいものではない。問題は次の説明である。

「中国は新たに原発を建設しつつある。民生用原子力発電の開発の面でメジャーな地位に立とうと計画をしている」と、中国の原発政策を分析。「世界が効率的で信頼性の高い原子炉や原子力サービスを得ようとするなか、日本は後れをとってはならない」と原発推進をけしかけた。さらに「原子炉の普及を世界的に推進するために、日米の同盟関係を保ちながら指導的役割を演じる必要がある」と日本の役割を説いた。

要するに、原発部門でも台頭しつつある中国を念頭に、「アメリカの同盟国である日本は原発推進リーダーとして、中国に負けることはあいならん」と、“日中原発競”での勝者への心構えを訓示したのである。同レポートは最後にこうまとめた。「原子力は日本の包括的な安全保障に欠かせない要素を構成する」。中国に敗れると日本の安全まで損なわれると言わんばかりの結論である。

「中国脅威」をあおりたてる安倍首相である。政府が原発をベースロード電源と位置付けた背景にアーミテージレポートがあったとみてよいだろう。この基本方針を受けて経済産業省は今年4月、2030年の電源構成を公表。総発電量に占める電源割合について、原発20~22%、再生可能エネルギー22~24%などとした。

3・11事故後、新規制基準で原発運転年数を40年までになった。この原則によれば、既存の原発全てを再稼働させ、さらに建設中の原発を稼働させても30年時点での原発比率は15%にとどまる。20~22%にするには原発の建て替えや新増設をしなければならない。つまり、経産省の公表は福島事故前に戻って原発をどんどん造る、との原発増殖打ち上げ花火なのだ。

川内原発についてはは、その周辺に五つのカルデラがあることから、巨大噴火の恐れが指摘されている。しかし事故が起きた際の避難対策が十分練られておらず、地元住民の不安は払拭されないままだ。そうしたなかで再稼働されることになれば、安倍首相が「アーミテージレポートの実践が全てに優先される」と、人命軽視宣言をしたに等しい。

かつて、人格権尊重の観点から「原発は憲法違反」と下級裁判所で判示されたことがあり、反原発の論拠にもなっている。だが、安倍首相にとっての最高法規は憲法ではなくてアーミテージレポートなのである。