◇白石阿光の不条理ストーリー 15 「徳をもってする“戦争アンダーコントロール論”の…」 :白石阿光

緑深い山道の横の岩の間からちょろちょろと滲み出る水を思い浮かべながら、自宅の洗面所の水をちょろちょろと出し、手ですくいながら顔を洗ってみませんか。

「環境保護のため」「資源の無駄使いをしない」「節水コマを使おう」などという世俗的な思いから解き放たれ、心地よい一日が始まります。

木立の奥遠く、小鳥の声が聞こえませんか。脳の伝達化学物質がフィトンチットに変わっているかもしれません。

そうです。人間はちょっとした心の持ちようで幸せにも不幸にも感じるのです。どういう事態に陥ろうとも、足下の小さな幸せを大事にしましょう。どんな大変なことがあっても毎日の出来事に感謝しましょう。人の間違いを責めるのではなく、自分の至らなさを思い、人間性を高める喜びを持ちましょう。不満を成長の糧にすることで喜びがわき、社会に順応し、世のため人のために尽くすことができます。

そういう人は、国を動かすことがどんなに大変なことかも想像することができます。国を動かしている人たちへの感謝の念も自ずと生まれ、徳の高い強い国ができあがるのです。☆☆☆☆☆☆☆☆◇◇◇◇◇◇◇☆☆☆☆☆☆☆☆--国は非常大権を憲法で明文化しようとしていますが、国民をしばりつけようとしているのではないですか。

「私たちが国民をしばるわけがないじゃあないですか。もし、そう思ったら選挙で落とせばいいんですから」

--我々報道機関に対して陰に陽に圧力をかけているではないですか。報道規制の強化につながります。

「わたしたちがあなたたちの報道を規制するわけがないじゃないですか。もし、そう思ったら紙面や番組で批判したらいいんです」

--非常大権は、国民の人権を無視し、自由な報道をさせないことにつながるのではないですか。

「あなたたちにそんなに力がないというのであれば、それは私たちの問題ではなく、あなたたちの問題でしょう。あなたたちは第四の権力を持っているのですから。

第一、新聞やテレビでは、現にいろいろな主張がされています。私たちを応援してくれるメディアもありますから私たちは何も困っていませんよ」

--ジャーナリズムは真実を報道し、権力をチェックするのが役目です。国家権力とは緊張関係になければなりません。

「そんなことを言っても、私はあなたたちの会社の社長としょっちゅう会食していますよ。政策を作ってもらったり、選挙情勢の情報交換をしたりもしています。だから最近の選挙報道はよく当たると思いませんか。あなたたちの先輩のなかには政策秘書や政治家になっている人もたくさんいます。私もその一人です」

--政府は非常大権を憲法で規定し、関連の100の法案を成立させようとしていますが、国民の権利を制限する政策に対して国民の中から批判の声が上がっています。

「馬鹿も休み休み言いなさい。あなた方が言っている国民って誰のことですか。

私たちは選挙に勝ったのですよ。公約に非常大権のことは入れませんでしたが、野党はずっと口にしていました。しかも、党の方針の中には昔から入っているのです。選挙後の政権支持率は低くないのにそんなことを言ってたら、あなたたちの方が国民に見放されますよ」

--個別案件ごとに世論調査を行えば、いつも過半数の国民が非常大権に反対です。

「聞き方があるでしょ。非常大権に不安があるか、と聞けばあるという人が多くなりますよ。でも、他国が侵略したときにわがままな国民やテロ集団が勝手な行動を取ることに不安を感じるという人は多いし、大災害の時に復旧車両やヘリ、救助隊を優先させたり、支援物資を強権的に集めたり、じゃまな家屋を壊したりすることを許容する人も多いんだから、それは結局、非常大権を支持しているということになるんですよ」

--ジャーナリストは常に権力の横暴に目を光らせ、警鐘を鳴らし続けなければなりません。

「権力敵視に凝り固まった、偏った報道をやっている番組や新聞社も一部あるようですが、法律が成立したらそんな勝手は許されません。大体、そういう人たちの取材は、黙って人の家に入ったり、ゴミ箱をあさったりで、元々法律違反ばかりです」

--それは時代錯誤というものです。いまどきそんな取材はしません。今は、ネット情報を調べたり、行政に情報公開を求めたりする近代的な調査報道が主流です。

「だから、そういう行き過ぎを禁止する法律ができるんです。そもそも行政が情報を非公開にするのは国民や国益を守るため。その趣旨もわからずに情報を入手し、メディアで国民を扇動するようなことは社会的に許されません」

--ジャーナリストは悪法には負けません。たとえ法律違反と言われても真実を求めて国民に伝える活動はやめません。

「あなたはそのうち国家混乱罪で逮捕されるでしょう」

--報道の自由は、社会の健全性を保つ上で重要です。法律に違反した取材方法であっても、報道された内容がその違反以上の利益を社会にもたらした場合、法律違反は許されると考えます。ただし、社会から公益に至らない行動だと判断されたら潔く責任を取ります。

「偉い! 私と同じです。私も、非常時に国民と国益を守らないといけないとなったら、憲法を無視しても指揮命令の義務を果たさなければなりません。憲法を破っても国を守ればいいんです。あとでそれが誤りだと言われたら潔く責任を取ります」

--国民の知る権利を守るためにやることと国民の権利を制限することは違うことだと思うんですが.…。

「国民を守るということでは同じですよ。でも、私の方はもうすぐ合法に、あなたの方ははっきりとした違法になります」

--そこまでして何を実現したいのですか。

「私が目指しているのは“聖人政治”です。そして、国の形として“有徳国家”を作り上げたいと思っています」

 

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「玉砕という言葉を知っておろう」

102歳になるという老人がおもむろに口を開いた。

1943年5月、アリューシャン列島アッツ島を守っていた日本軍は上陸したアメリカ軍と戦い、全滅した。

「玉砕とは美しく砕け散ることじゃが、日本軍は見殺しにされ、高地陣地の霧のなかで悶え狂い、砲撃に砕け散るのみだった。最後は万歳突撃と集団自決じゃ。とてもウツクシイトハ言えまいて」

大日本帝国は、アッツ島守備隊に対して玉砕命令を発した--「軍は海軍と協同し万策を尽くして人員の救出に務むるも地区隊長以下凡百の手段を講して敵兵員の燼滅を図り最後に至らは潔く玉砕し皇国軍人精神の精華を発揮するの覚悟あらんことを望む」

助けにいかないから死ね、という命令だった。アッツ島守備隊司令官は最後の電報を東京の大本営に打った--「野戦病院に収容中の傷病者は其の場に於て軽傷者は自身自ら処理せしめ重傷者は軍医をして処理せしむ 非戦闘員たる軍属は各自兵器を採り陸海軍共一隊を編成 攻撃隊の後方を前進せしむ 共に生きて捕虜の辱しめを受けさる様覚悟せしめたり」

2016年2月、日米合同の軍事演習があった。テーマは「離島奪還」であり、オスプレイが飛び、水陸両用艇で上陸する作戦が行われた。殺される心配のない訓練ではあるが、これが本番ならまさしく70年前の再現になるだろう。

「皮肉なことだ。太平洋の島々で殲滅戦を戦った者同士が70年後に一緒になって、取られた島を取り戻す戦争をしようとしている」

老人は昨日のことのように玉砕(総員壮烈なる戦死)した島々のことを話し始めた。

・1943年 5月アッツ島、11月ギルバート諸島のマキン環礁、タラワ環礁ベティオ島、アベママ島

・1944年 2月マーシャル諸島のクワジェリン環礁、ブラウン環礁、7月ニューギニア西部のビアク島、マリアナ諸島のサイパン島、8月テニアン島、グアム島、9月パラオ諸島のアンガウル島、11月ペリリュー島

・1945年 3月ビスマルク諸島のニューブリテン島、硫黄島

そして、1945年6月23日、沖縄の守備隊は「総員壮烈なる斬り込み」を敢行し、玉砕した。

大本営はすでに1944年6月の時点で「もはや希望ある戦争政策は遂行し得ない。残るは一億玉砕による敵の戦意放棄を待つのみ」としていた。ポツダム宣言を受け入れる1年以上前のことだった。その間にも多くの兵士や民間人が死んだ。

老人はつぶやいた。

「当時、日本人は7千万人。1億人は朝鮮人や台湾人、その他占領地の住民も入れてのことじゃ。全員死ねば敵は戦意を放棄するのは当たり前じゃが、みんな殺しておいて何が残るというのか」

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青年は完全武装していた。武装といっても武器を持っているわけではない。それはウェアラブルITの進化形と言ってしまえば簡単だが、外見は何のヘンテツもない姿のままでの完全武装なのである。

眼につけているコンタクトレンズは、単に視力調整をするだけではない。眼には存在しないはずの物も写し出されていた。

突然雲の中から戦闘機が突っ込んできた。その瞬間、青年は左目でまばたくと、レンズの中で戦闘機が撃ち落とされた。と、屈強な若者が近づいてきて話しかけようとした。青年は再びまばたき、若者を銃撃して消した。猫がすり寄ってきた。青年は右目をゆっくりと閉じた。猫は「にゃーん」と鳴いて消えた。

右手から左方向に何かが通った。確かに微かだが耳に心地よい振動音が残り、空気の揺れもまだ感じられるほどだ。その物体は青年の体に突き刺さったはずなのに、何事も起こらなかった。たぶん、超高速のリニア浮遊車が通ったのであろう。その瞬間、青年の体はジャンプした。全身に塗ったAI筋肉剤が物体を感知して自動的に作用したのだろう。青年の脳は何も感じていなかった。

10年前、すべての人間はAI筋肉剤を塗ることになった。AI筋肉剤は自律的に作用し、地球上の空間に起きた事象のすべてが世界連邦情報センターに把握され、完全なコントロール下に管理されるようになった。

いまや世の中に武器というものはない。だから殺し合いも戦争もない。頭に浮かんだ殺意はすぐにバーチャルに処理され、脳から悪意が除去された。「殺したい人間がバーチャル空間に出現し、まばたきで消す」というのも処理の一つである。

AI(人工知能)が進むにつれ、脳は退化し、五感がとらえる感覚に反応しなくなっていた。今ではわずかに感情という機能だけが残存している。感情の発露は社会にいい影響を与えるのか悪く作用するのかわからないのでAIによって管理し、社会の秩序が維持できるようにコントロールされていた。

 

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なぜこの世界が武装解除され、兵器がなくなったのでしょうか。それは必ずしも平和が尊ばれたからではありません。

昔この列島は二度ほど焦土と化しました。東坊ヒデキという人とアベ真理王という人がリーダーだったときだと聞いています。

戦争というのは、戦争の記憶が薄れるにつれ、起きる可能性が高まるそうです。東坊時代とアベ時代の間には70数年という時間の隔たりがあり、戦争の悲惨さを体験した人がほとんどいなくなったとき再び戦争が始まったといわれています。

アベ真理王は「真理はスクラップ アンド ビルドにある。破壊の度合いをコントロールできる適度な戦争は経済発展をもたらす」というアベノリクツ理論を主張し、「戦争も経済もアンダーコントロールされる」と世界に宣言しました。

そして、「戦争を体験しないと戦争の悲惨さはわからない」という国民の声を受け、「コントロールされた戦争は平和を育む」という平和宣言を発しました。ときどき起こる紛争は国民を一致団結させる効果がありました。

アベトモ軍団のリーダーは子どもに言いました。「いいかい、完全な平和は社会を堕落させる。溢れんばかりの愛情は兵士をおじけさせるんだ」

いくつかの小競り合いのあと、突然ミサイルが飛び交い、あっという間に核爆弾と核発電所が連鎖反応を起こし、世界中に核爆発と放射能汚染が広がりました。人々はいかにアンダーコントロール理論が危ういものであったかを知らされました。人の記憶や想像力が頼りにならないことを知った瞬間でもありました。

「戦争の悲惨さはAIに記憶させよう」--大科学者が提唱したとき、誰も反対する人はいませんでした。そして、戦争をアンダーコントロール状態に保つにはどうしたらいいか、考えました。

そうだ! 戦争をバーチャルな世界に閉じ込めよう! そうしたらいくら人を殺しても人は死なない。しかも、バーチャルな戦いはどこまでもエスカレートするから次々にソフトが開発され、経済は発展し続けるだろう。

かくして地球上の人類はみな、ゲーム戦士になったのです。

そして、たったひとつの決まりがAI憲章として決められました。

「兵器を 持たず、作らず、使用せず」

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何百年もの間、冷凍庫の中で眠っていたアインシュタインの脳が動き始めた。

反応することをAIに任せ、退化を続けてきた脳たちが、残った力を振り絞って働きかけた成果だった。

戦闘機を消した青年のまばたきはAIコンタクトレンズの機能と考えられた。だが、本当にそうだったのだろうか。脳の一部に意思というものが残っている可能性がまったくないとは言えなかった。少なくともアインシュタイン脳は、脳たちが一部先祖帰りしているのを感じ取っていた。一つ一つの脳波は弱かったが、一気にアインシュタイン脳に向かってきたエネルギーは、生半可なレベルではなかったからである。それらは「私たちが意思を取り戻すことに力を貸してください」と訴えていた。

アインシュタイン脳は何もするまいと決めていた。

わずかな記憶のなかに、かつて世界認識を変えた理論が超破壊兵器誕生につながったこと、敵対国の超破壊兵器開発を抑止するために作った自分達の兵器が唯一、実戦で大量殺人を冒してしまったこと、が浮かび上がっていたからである。

アインシュタイン脳はつぶやいた。

「平安は、電気信号と化学反応、そして沈黙によって獲得される」

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一人の脳が歌い始めました。

♪青くなってしり込みなさい 逃げなさい 隠れなさい♪

やがてそれは声なき声となって脳同士が共鳴し合い、脳の世界を流れました。アンダーコントロール状態の唇のAI筋肉剤がわずかに震え、心なしか唇に色が差してきたように見えました。