現代時評《首相と知事の恥さらし》:井上脩身

舛添要一東京都知事が政治資金の私的流用疑惑問題の責任を取り、21日、辞職した。舛添氏にかかわる様々な疑惑のなかで、最も集中砲火を浴びたのは、2013年と翌年の正月、千葉県木更津市のホテルに家族で宿泊したにもかかわらず、ホテル代を会議費として政治資金から支出たことだ。

確かに舛添氏の行為は、首都のトップとしては余りにも恥ずかしい。だが、恥の質でいえば、安倍晋三首相がG7の首脳会議で「リーマン・ショック前と似た状態」と述べたことの方が、はるかに問題だろう。世界の首脳から「そこまでの危機ではない」と指摘されると、今度は「新しい判断」を持ち出して消費増税再延期の理由にした。恥の上塗りというほかない。舛添氏以上に責任を問われるべきなのは、安倍首相の厚顔無恥政治である。

舛添氏は疑惑の追及を受け、元検事の弁護士に調査を依頼し、6月6日、調査報告書を公表した。それによると、10年から14年までの家族旅行の宿泊費のうち、木更津市の2件を含め6件(計80万2841円)の、また家族との飲食費については、09年から14年の間、14件(計33万6495円)の不適切な支出があった。ほかに、『ピザの本』など、政治活動と直接かかわるとは思えない数多くの書籍の購入に政治資金が充てられた。

弁護士は政治資金規正法上の違法ではないとしたが、国民・都民からは「恥知らず」の声が飛び交った。学者としても政治家としても成功した著名人にしては、誰の目にもやることがさもしい。都議会各会派は不信任決議をすると舛添氏に迫った。

私は調査報告書をインターネットでみて、舛添氏の政治団体が政治資金で購入した書籍のなかに『アベノミクス批判』『アベノミクスの終焉』『自民党憲法改正草案にダメ出し食らわす』『自民党政治の変容』があることを知った。報告書公表後の都議会で、アベノミクスや憲法、安倍自民党についての舛添氏の見解をただしたうえで、舛添氏の恥ずべき行為が辞任させるに当たるか否かを判断すべきだった、と私は考える。だが、都議会議員がそうした検討をした、との報道はなかった。

舛添問題で浮かびあがったのは政治とカネよりもむしろ政治家の恥さらしである。そうした政治的恥のなかでも悪質なのは、選挙公約を一言の釈明もなく180度変えることである。

安倍首相は14年10月、消費税の10%への引き上げを1年半延期すると表明した際、「再び延期することはない。はっきり断言する」と言い切り、その後の国会答弁でも「リーマン・ショックや大災害のような重大な事態が発生しない限り、実施する」と繰り返し述べた。アベノミクスによって経済は好転する、との強い自信の表明ともいえた。

だが、その自信とは裏腹に、個人消費は伸びず、アベノミクスが頓挫しかかっていることは今や歴然としている。消費増税を再延長するしかない、と判断した安倍首相。アベノミクスの失敗を隠ぺいするためにはリーマン・ショックを引っ張り出すしかない、と考えたのだろう。安倍首相は伊勢志摩サミットでリーマン・ショック時に近い数値を集めた資料を提示した。だが、アメリカのGDP実績では09年がマイナス2・8であるのに対し、16年4月(予測値)は2・4のプラスになると見込まれているなど、リーマン・ショック時とは大きく異なっている。はたして各国首脳から、「危機とまで言えるのか」と疑問の声が出た。(5月27日付毎日新聞)

リーマン・ショック的経済状態が否定されると、消費増税再延期の根拠がなくなるはずである。ところが安倍首相は6月1日の記者会見で、消費税の引き上げについて、19年10月までさらに延期することを表明。「これまでの約束と異なる新しい判断」と述べた。「はっきり断言」した約束事を、「新しい判断」で反故にしたのである。

政治家が「はっきり断言」して婚約したのに、「新しい判断」で別の人を結婚すれば、大バッシングにあうだろう。しかし、所詮は個人レベルのことだ。税は、国の在り方、国民生活の在り方に直接かかわる政策上の最も重大な課題だ。「新しい判断」の一言ですむ問題では毛頭ない。

アベノミクスの失敗を覆い隠すために口から出た「新しい判断」。こんな愚劣な言葉をぬけぬけと公の場で述べて恥ずかしいと思わないならば、もはや首相として失格である。

最近の世論調査によると安倍首相の支持率は42%(6月20日付毎日新聞)だ。舛添氏は恥だが、安倍首相は恥とは思わない、という国民が約4割いるのだ。安倍政権は国民の「無恥」の上に立っているに過ぎないのである。