現代時評 《丸山発言と合衆国憲法》:井上脩身

自民党の丸山和也参院議員が2月17日の参院憲法審査会で、オバマ大統領を引きあいに「黒人の血を引く。奴隷ですよ」と述べたことが、「黒人差別発言」と問題になった。丸山氏は同審査会の委員を辞任し、一件落着した格好だ。自民党国会議員のお粗末ぶりをいちいち論評するのも煩わしいが、丸山氏が「憲法とアメリカ」について発言したこの機会に、米合衆国憲法を通してアメリカという国を考えてみたい。折しもアメリカは今大統領選候補者指名争いの真ただなかである。

丸山氏の発言要旨は以下の通りである。

アメリカの第51番目の州になることについて、憲法上どのような問題があるのか。集団的自衛権、安保条約は問題にならない。拉致問題も起こっていない。日本州の出身が大統領になる可能性も出る。今、アメリカは黒人が大統領になっている。黒人の血を引く。これは奴隷ですよ。公民権も何もない。アメリカの建国当初の時代に、黒人奴隷が大統領になるとは考えもしない。ダイナミックな変革をしていく国だ。

この発言の問題点を挙げれば紙数がいくらあっても足りないだろう。51番目の州になることを仮定して国会の論議に上げようとすること自体、丸山氏が政治家失格であることを示している。今「米合衆国日本州」を検討しなければならない状況は全くないからだ。

ただ、「建国当初、公民権のない黒人奴隷が大統領になっている」という点については、合衆国憲法の観点から押さえておきたい。

合衆国憲法は1788年に発効。憲法の修正には「4分の3の州の批准」を必要とする硬性憲法である。

まず奴隷制度廃止について。1865年、「奴隷制、または自発的でない隷属は合衆国内では存在してはならない」と規定する修正第13条が各州議会に提案された。36州中27州議会で批准され、布告された。次いで市民としての身分と公民権を保障する修正第14条が提案され、1868年に28州議会が批准、成立した。

奴隷制禁止と公民権保障が認められるのに、憲法ができてから80年以上もかかった。しかし、第13条(奴隷禁止)をミシシッピー州が批准したのは1995年、第14条(公民権保障)をケンタッキー州が批准したのは1976年だ。キング牧師の公民権運動にみられるように、修正条項の成立後も、黒人対する厳しい差別はなくならなかった。

さらに見落としはならないのは、「男女平等修正条項(ERA)」が今なお成立していないことである。

同条項は「性別を理由として、法の下の平等の権利を拒否または制限されてはならない」というもので、1923年に素案が作成され、72年、ようやく合衆国議会で採択された。ところが、人工中絶に反対する宗教団体や保守勢力の運動により、10年内の批准期間内に4分の3に当たる38州の批准を得るに至らず、成立できなかった(辻村みよ子『比較のなかの憲法論』岩波新書)。

丸山氏はアメリカを「ダイナミックな変革の国」という。だが、「男女平等」という当たり前の規定が成立しない保守的な国でもあるのだ。大統領選の予備選で共和党のトランプ氏が熱狂的な支持を得ている現実は、黒人やヒスパニック、女性やキリスト教徒でない人たちに対する差別感情を抱く人が多いことを如実に表している。

民主党の指名争いでは女性のクリントン氏が一歩リードしている。憲法というフィルターを通してアメリカを見た場合、女性が大統領になることは、黒人大統領の誕生にも劣らず画期的である。今回のアメリカ大統領選はオバマ・クリントン対トランプという図式といえるだろう。その勝敗は21世紀の世界の行方に大きな影響を及ぼす。

丸山氏が政治家としての能力、識見があるならば、発言の前に合衆国憲法の基礎と現状を調べたはずである。勉強もせずに軽々しい発言をするのは丸山氏だけでないことは言うまでもない。