現代時評《「歯舞」が読めない北方担当相》:井上脩身

安倍晋三政権の閣僚のレベルの低さは目を覆うばかりだ。丸川珠代環境相が7日、長野県松本市での講演で、福島第一原発事故後に定めた除染の長期目標である「年間被ばく線量1ミリシーベルト以下」について、「何の科学的根拠もなく決めた」と無知ぶりを現せば、その2日後の9日、島尻安伊子沖縄・北方担当相が「歯舞」を読めないという、信じがたい欠陥大臣ぶりを露わにした。マスコミから揶揄される安倍チルドレンの無能大臣たち。もはや「アホ政権の末期症状」というべきだろう。

島尻氏の問題を考えてみたい。

報道によると、島尻北方相は閣議後の記者会見で、北方領土の元島民がつくる「千島歯舞諸島居住者連盟」が取り組む「北方領土ネット検定」の活動を、資料を見ながら紹介。この団体名を読み上げる際、「はぼ、えー、何だっけ」と詰まり、秘書官に「はぼまい」と助け舟を出してもらった。(10日付毎日新聞)

「歯舞が読めない大臣」の報に世代間ギャップを覚えた。私が小学校の時、ラジオから何度も「はぼまい、しこたん」の言葉が流れ、耳にこびりついてしまった。「はぼまい」が「歯舞」であり、「しこたん」が「色丹」であることを学校で教わった。

今振り返れば、1956年、日ソ共同宣言がなされたころのニュース放送だったのだろう。その年、私は小学6年生だった。同年7月の日ソ平和条約交渉で重光葵全権は四島返還を主張。ソ連側の態度が硬く、歯舞、色丹の二島返還で交渉し直すことを決意。しかし、政府が重光提案を拒否したため、交渉は暗礁に乗り上げた。結局、共同宣言で歯舞、色丹を平和条約締結後に日本に引き渡すこととなった。

小学生の私に交渉経過まで理解できるはずはなかったが、「歯舞、色丹」が重要な政治課題であることくらいはわかった。

北方領土問題に関しては、現在わが国には政府公式見解である「四島返還論」のほかに、「二島先行返還論(2プラス2方式)」、「三島返還論(フィフティー・フィフティー論)」「面積2等分論」、「共同統治論」などの意見がある。いずれの論をとっても、根室半島先端・納沙布岬の目と鼻の先にある歯舞群島は基本の基本だ。

麻生太郎副首相が首相時代の09年1月、「踏襲」を「ふしゅう」と読んで、多くの国民にばかにされた。中学生程度の漢字能力がなくても首相になれる国だから、「歯舞」が読めない大臣がいても不思議ではないが、ことは深刻である。北方領土問題の打開のためにはロシアと交渉が必要だ。4島しかない北方四島の名をまともに読めない者が日本の担当大臣なのだ。ロシア側になめられるに決まっている。それでなくともロシア側は日本に歩み寄る気配は全くない。これでは交渉にすらなるまい。

島尻氏は仙台市出身。04年、那覇市議選に当選し、民主党系会派に所属。09年、参院沖縄補欠選で、自民党と公明党の推薦を受けて当選。10年の参院選で自民党から立候補して再選した。安倍首相が「辺野古基地反対運動つぶし」のために沖縄担当相として入閣させたのは誰の目にも明らかだ。実際、大臣就任後、沖縄には9回、公務として出かけている。しかし、北方領土関連出張は1度だけだ(前掲紙)。

こうして見ると、「歯舞」が読めなかった、というより「歯舞」に関心がなかったのだ。それは、北方領土に関心がなかったことであり、日露問題に関心がなかったことを示している。担当相になって付け焼刃的に官僚から北方領土問題の基本は勉強した(それも疑わしい)としても、身にはついていなかった、というわけだ。

いま、日露の外交官レベルでプーチン大統領の訪日が検討されている。プーチン大統領との直接交渉で、北方四島問題の何らかの道筋をつけたい、というのが安倍首相の目論みだろう。「あんな大臣で何ができるというのか」。プーチン大統領の高笑いが聞こえてくる。