609studio MailMagazine No.740

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【609 Studio】メール・マガジン 2016・1・5 No.740
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フリージャーナリスト片山通夫のメールマガジン。Lapiz編集長・井上脩身氏の現代時評、ロシアやサハリンの話題、編集長のコラムなど多彩な話題満載!
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あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。

                                                                           2016/1/5
609studio/Lapiz 編集部一同

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◆現代時評 《慰安婦日韓合意の裏側》: 井上脩身
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慰安婦問題について12月28日、ソウルの韓国外務省で岸田文雄外相と韓国の尹炳世外相が会談、「最終的かつ不可逆的に解決されることを確認」することで合意した。日本国内のマスコミは合意を歓迎、野党も評価している。しかし、見落としてはならないのは、安倍政権にとって慰安婦問題の解決は、集団的自衛権行使のための安保法制、TPPの大筋合意と合わせたワンパケージであることだ。その背景に、中国の台頭を念頭に置いたアメリカの太平洋戦略があることはいうまでもない。安倍政権は今年、中国包囲のための日韓連携集団的自衛のための具体的構築にかかると思われる。

報道によると、日韓両外相の間で、1)慰安婦問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認、2)日本政府は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を傷つけた慰安婦問題の責任を痛感、3)安倍晋三首相は心からおわびと反省の気持ちを表明、4)韓国政府が元慰安婦を支援する財団を設立し、日本政府の予算で10億円程度を拠出、5)韓国政府は在韓国日本大使館前の少女像への日本政府の懸念を認知し、適切な解決に努力――の5点で合意に達した。

慰安婦問題について、1993年に「心からのおわびと反省の気持ち」を表明した河野洋平官房長官(当時)談話に対し、安倍首相は第1次内閣時代に「見直し」の意向を示した。歴史修正主義的な考えの安倍首相が方針を変えて官房長官談話の「おわびと反省」を踏襲したのは、アーミテージ米元国務副長官の提言に応じたからに相違ない。アーミテージ氏は日本に求める外交・防衛政策をとりまとめた「アーミテージレポート」の中で、共にアメリカの同盟国である日本と韓国が歴史認識問題で対立していることを懸念し、日本政府に慰安婦問題に向き合うよう強く要請。これを受けて、安倍首相は戦後70年談話の中で、戦時中に傷つけられ女性の尊厳について言及、慰安婦問題についての積極的な姿勢を見せた。朴大統領は11月、青瓦台に安倍首相を招いて会談、慰安婦問題の妥結に向けて動き出した。

今回の合意に至った経緯をみると、アメリカの意向が強く働いていたことは明白である。歴史認識問題で中国と共同歩調をとる気配を見せた朴大統領を、中国から引き離して日本に歩み寄らせた、という意味では、アメリカの水面下外交の勝利といえるだろう。

アメリカがいま、最も重視するのは経済的にも軍事的にも脅威となりつつある中国との関係である。TPPの締結によって輸出を拡大することで、経済面で中国に優位に立つ。軍事面では、日本と韓国が共にアメリカに対する集団的自衛権を行使できる状態にして中国を包囲し、東シナ海や南シナ海で中国軍を牽制する。
こうした経済、軍事両面で対中国戦略の展開のためには、日韓両国を従属させることが絶対条件なのだ。
今回の合意を受けて安倍首相は「日韓の新時代を迎える」と述べた。「新時代」とは、日韓がアメリカの要請に応じて共同して集団的自衛行動をとることを意味することはいうまでもない。当面は、日米間共同軍事演習が常態化されるだろう。

もう一つの注目点は韓国がTPPに加わるかどうか、である。恐らく、韓国側に加入を求める動きが加速されるだろう。韓国経済界としは、TPP参加のメリットは小さいが、アメリカの意向をのまざるを得ない、との判断に立つ可能性は高い。今回の合意によって、アメリカの中国包囲網はほぼ形成されたことになる。
それがかえって新たな緊張を生むことになる。安倍首相は、慰安婦問題について「次世代に引きつがなない」という。ならば、集団的自衛権という戦争の芽こそ次世代のために、今のうちに摘み取らなければならない。
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◆ショートストーリー「善意基盤社会の弊害克服に関する予備的考察」 :白石阿光
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4、3、2、1、ゴオーッツ!!
ロケットは空の彼方に飛んでいった。
人々が見上げる空にも足を踏ん張る大地にも何も残らなかった。
いや、人々が、何も残らなかった、と思い込んでいただけだった。
実際、何も残らないはずがない。巨大なロケットは、膨大なエネルギーを消費して飛んでいったのだ。空に浮かぶこともできない金属の塊は、自分が浮かび上がる運動量を必要とし、そしてそれと同等の運動量を地球表面に残した。人々はその運動量の中に抱き込まれたのは間違いのないことだった。空を見上げていた人々の中には確かな変化が残されていた。人々はそれに気づかないまま、それぞれに家路についた。
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「募金をお願いしま~す!」
「日本を世界一の技術国にしましょう」
「私たちは誇り高い民族として世界に誇りを持たなければなりません」

ロケット発射の次の日、街頭に立って叫ぶ人の姿があった。
「資源がない我が国は、科学技術立国でいくしかありません。しかし、国はいま、財政難です。ここは、私たち国民の力で支えましょう」
手には「日本のロケットを世界一に!」と書かれた幟を持ち、胸のたすきには「進め一億、火の玉だ」、募金箱には「宇宙防衛基金」という文字が見えた。
その次の日、街頭に立つ人の数が増えたように思えた。またその次の日も人の数は少しずつではあるが、明らかに増えていた。

さらにその次の日、住宅街の一軒一軒をチャイムを鳴らし、募金を求めて歩く人の姿があった。
そして次の日には、全国の町内会に同じ内容の回覧板が回されていた。そこには「1口1兆円、2口以上の募金をお願いします」と書かれてあった。
回覧板の上欄には、“マイファミリーカード”の下4桁が表示されており、各家庭では家人が人差し指を赤い色の升に近づけた。そうすると、指紋を認証したという証拠に色が赤から黄色に変わり、もう一度押すと色が緑になった。その家は2口分2兆円を寄付したのだった。回覧板は国管理のスーパーコンピュータに接続されており、銀行口座からは正確に寄付金が引き落とされた。
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「いやあ、打ち上げのときにはひゃっとしましたよ」
「けがの功名か」
「打ち上げの時に“善意ビーム”が漏れるとは」
「よかったじゃないか。基金もどんどん集まっているし、ロケット切手の売り上げもよさそうだ」
ロケット切手とは「ロケット支援緊急時郵便貯金切手」のことで、ちまたではなぜか“弾丸切手”と呼ばれていた。
「まもなく“善意衛星”は静止軌道に乗ります。これで10個目です。まもなく世界平和が実現するでしょう」
「これでやっと世界から紛争がなくなり、善意衛星のおかげで枕を高くして寝られるようになりますね」
「人類の最高の理想の実現じゃな」
やがて衛星は静止軌道に乗り、10個の衛星から一斉に地上に向けて善意ビームが発射された。
地上の紛争はすべて消えた。
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ジパング国国防軍は混乱に陥っていた。
「どことも連絡が取れません。情報網がすべて絶たれてしまいました」
「ABCD包囲網は予測していたことだろう」
「世界連邦の勧告が出され、友好国まで寝返ってしまいました」
「万事休すか。どうすればいい」
「外交部も手詰まりです。あとは首相官邸特命部の結果を待つしかありません」
「どうなるんだ」
「まったくわかりません。特命公務秘密法および関連法により、私たちには何も知らされていませんから」
実際にジパングの周りの海には、各国の情報遮断艇が数珠繋ぎに並び、列島を取り囲んでいた。無人の船からは空に向かって妨害電波のカーテンが広げられていた。
世界連邦は、ジパング政府に向けていくつかの要求を突きつけていた。
曰く、自らを神国と呼ばず、覇権主義を放棄すること
曰く、現在保有している、世界の98%にあたるプルトニウムを世界連邦の管理下に移すこと
曰く、国内の難民および少数民族に対する差別的待遇および弾圧をやめること
曰く、少女アダルトコンテンツ、過激な暴力的シーンばかりのゲーム、パチンコ賭博を集中豪雨的に世界の情報網に流すのをやめること
というものであった。

しかし、ジパング国政府からの反応はなかった。なんにも……。
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「クマソ国からは、原発から出るプルトニウムはすべて国の管理に任せると言っ
て来ています」
「これまでは地方の自決権を主張してきたが、これからは中央政府を全面的に信頼すると言っています」

一方、エミシ国は世論が別れていた。
「自分たちの神が一番だ」という意見が有力だった。
「自然と共生してきた自分たちの生き方を世界に発信しよう」
「世界中の愚かな民に、私たちの優れた生き方を教えよう」
それに対して「善意を押しつけてはいけない」という反論があり、また少数ながら「中央政府が掲げる“オオミカミ”が正当な神だ」と主張する勢力も現れた。
彼らは、世界家族同盟を提唱、家族倫理教育法の制定を求めていた。
「ロケットは神をもしのぐ」「ロケットこそ世界平和の象徴だ」と訴える集団もあった。ロケット党は中央政府ともつながり、募金活動を精力的に展開していた。
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「これほどジパングを神の国だと芯から信じている人間がいるとは思わなかった」
「ゲームに没頭していた若者が、見たこともない宇宙人から防衛しようという意識を持ったのではないでしょうか」
「自分たちが一番の善人で、もっとも能力が高くて、世界中の愚かな善人を救うのだ、と思い込んでしまったのか」
彼らは、中華思想や十字軍従軍者には善意ビームが強くなるようにプログラミングしたが、ジパングの国民には同じレベルの線量しか浴びせなかったのだった。
それは、ジパングの国民が社会の風潮に一斉になびくということを読み間違えたからか。一部の跳ねっ返りはいないと考えてのことか。いずれにしても、風潮は一気に選民思想に向かって走っていた。
「家族の絆を強めることで社会の秩序を守る道徳観が戻り、倫理が広がった。もう少しだったのに……」
「どうしてこうなったんだろう」
それは昔、この列島に起きた原発事故のせいかもしれなかった。
「あの連中は、浴びすぎたのだろうか。少なかったのだろうか」
それはもはやどうでもいいことだった。そろそろ結論を出さなければならなかった。
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人の皮を脱いだその下は防護服だった。
「やるか」
そう言うと、スイッチに手をかけ、一気に押した。その瞬間、地球を周回していた10個のロケットはすべて爆破された。
防護服を脱いだ。そこにはひからびた皮膚の人間がいた。その皮膚はみるみるうちに大気中の湿気を吸ってふくらんだ。水ぶくれの人間は静かに目を閉じた。
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地上には再び無秩序な世界が戻った。善意のカオス状況は記憶としても残ることはなかった。

(出典明記の上転載自由、改作不可、追記創作・コメント歓迎)

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【著書案内】

「追跡!あるサハリン残留朝鮮人の生涯」 片山通夫 著

日本の植民地統治が生んだ一家離散「二重徴用」「急速転換」「樺太  への逆密航」を語る貴重な証言!!

凱風社 刊 http://www.gaifu.co.jp/index.html

定価 1900円+税
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◆「ふろむ京都山麓」抜粋抄 《アウンサンスーチーとミャンマー(3)》:みなみうら・くにひと
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<2011年11月から翌春までのミャンマー>

2011年の年末から翌年にかけて、わたしは備忘録のようにミャンマーのことを書いたことがある。そのころ北朝鮮と親密で、特殊な孤立国家だったミャンマーが劇的に大変革を起こし出した。新しく大統領に就任したテインセインの力が大きいようだが、この変化は何だったのか? いくらかリライトしたが、参考まで
に当時の文を再録します。

近ごろ気になる国のひとつがミャンマーだ。ごく最近、たいへん急激な変化をとげつつある。民主化と国民の幸福実現のために、国のかじ取りが大きく変わりつつあるようだ。どうも本物のように思える。もし早い時期に当面の目標に届けば、国民の圧倒的多数は獲得した自由と幸福に驚くことであろう。世界中でも有
数の幸福度の高い国になる可能性がある。

ミャンマーすなわちビルマは、国土面積が日本の1.8倍。人口は5300万人ほどと東南アジアでも大きな国。国民は勤勉で辛抱強く、手先が日本人よりも器用という。識字率は9割と高く、イギリスの植民地だったため英語を理解するひとも多いそうだ。周囲には中国、ラオス、タイ、バングラデシュ、インドの5カ国が
取り囲むという、地政学的にも重要な位置にある国だ。

しかし長く軍政下にあり、政敵や反抗する少数民族に対して容赦しない。殺害や投獄はあたりまえで、野党NLDを率いるアウンサンスーチーはごく最近まで、15年間も自宅に軟禁されていた。

言論報道の自由もなく、世界報道自由度ランキングをみても、2011年はビリから11位、2010年はワースト5位。国民の所得はアジアで最低レベル。「アジアを代表する自由と豊かさのない最貧国のひとつ」とまで呼ばれていた。G D Pは356
億米ドルで福井県なみ。 また孤立国家のひとつで、米国を中心とする国際経済制裁を長く受けて来た。
<2015年12月27日>「ふろむ京都山麓」

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◆「スプートニク」 >>> 引用元    http://jp.sputniknews.com/
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◆一口メモ 【映画・戦艦ポチョムキン】
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ロシア語: Броненосец ≪Потёмкин≫ブラニノースィツ・
パチョームキン、英語:Battleship Potemkin)は、1925年に製作・公開されたソビエト連邦のサイレント映画。セルゲイ・エイゼンシュテイン監督の長編第2作目で、「第1次ロシア革命20周年記念」として製作された。1905年に起きた戦艦ポチョムキンの反乱を描いたもので、「オデッサの階段」と呼ばれるオデッサの市民を虐殺する場面は映画史上有名なシーンの一つであり、様々なオマージュやパロディを生んでいる。
この映画の製作から昨年12月末に90年を迎えた。
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◆編集長から: 片山通夫
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あけましておめでとうございます。
昨年はお世話になりました。

戦後70年の最後に安倍政権は(おそらくアメリカの強い意向で)両国の間に横たわる慰安婦問題を解決したとされる。

韓国最大の新聞・朝鮮日報は次のように伝えた。(2015年12月29日)

《慰安婦合意:24年ぶり最終決着、残るは安倍首相の「誠心誠意」》と見出しで伝え、次のように続けた。《しかし、日本の「法的責任」を明確にしない状態で慰安婦問題が「不可逆的に最終決着した」とクギを刺しているため、今後論争になる可能性があるものと見られる》、《 岸田外相は同日、日本の記者たちとの
会見で、元慰安婦支援について「(法的)賠償ではない」と言った。これについて韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)と元慰安婦たちはこの日、「今回の合意は国民の期待を裏切った外交的談合だ」と反発した。》

またもやいずれにもとれる《玉虫色の決着》である。朝鮮日報が伝えるように《安倍首相の「誠心誠意」》であり、《今後論争になる可能性がある》としか思えないのだが…。

さて小誌はこの号で通算740号。基本的には週一回発行なので、今年中には800号には届かない。
けど発行を続けることで皆様に話題や主張をお届けしたいと考えています。 本年もよろしくお願いいたします。
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発行     2016年1月5日  No.740
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