◆現代時評《慰安婦日韓合意の裏側》:井上脩身

慰安婦問題について12月28日、ソウルの韓国外務省で岸田文雄外相と韓国の尹炳世外相が会談、「最終的かつ不可逆的に解決されることを確認」することで合意した。日本国内のマスコミは合意を歓迎、野党も評価している。しかし、見落としてはならないのは、安倍政権にとって慰安婦問題の解決は、集団的自衛権行使のための安保法制、TPPの大筋合意と合わせたワンパッケージであることだ。その背景に、中国の台頭を念頭に置いたアメリカの太平洋戦略があることはいうまでもない。安倍政権は今年、中国包囲のための日韓連携集団的自衛のための具体的構築にかかると思われる。

報道によると、日韓両外相の間で①慰安婦問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認②日本政府は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を傷つけた慰安婦問題の責任を痛感③安倍晋三首相は心からおわびと反省の気持ちを表明④韓国政府が元慰安婦を支援する財団を設立し、日本政府の予算で10億円程度を拠出⑤韓国政府は在韓国日本大使館前の少女像への日本政府の懸念を認知し、適切な解決に努力――の5点で合意に達した。

慰安婦問題について、1993年に「心からのおわびと反省の気持ち」を表明した河野洋平官房長官(当時)談話に対し、安倍首相は第1次内閣時代に「見直し」の意向を示した。歴史修正主義的な考えの安倍首相が方針を変えて官房長官談話の「おわびと反省」を踏襲したのは、アーミテージ米元国務副長官の提言に応じたからに相違ない。

アーミテージ氏は日本に求める外交・防衛政策をとりまとめた「アーミテージレポート」の中で、共にアメリカの同盟国である日本と韓国が歴史認識問題で対立していることを懸念し、日本政府に慰安婦問題に向き合うよう強く要請。これを受けて、安倍首相は戦後70年談話の中で、戦時中に傷つけられ女性の尊厳について言及、慰安婦問題についての積極的な姿勢を見せた。朴大統領は11月、青瓦台に安倍首相を招いて会談、慰安婦問題の妥結に向けて動き出した。

今回の合意に至った経緯をみると、アメリカの意向が強く働いていたことは明白である。歴史認識問題で中国と共同歩調をとる気配を見せた朴大統領を、中国から引き離して日本に歩み寄らせた、という意味では、アメリカの水面下外交の勝利といえるだろう。

アメリカがいま、最も重視するのは経済的にも軍事的にも脅威となりつつある中国との関係である。TPPの締結によって輸出を拡大することで、経済面で中国に優位に立つ。軍事面では、日本と韓国が共にアメリカに対する集団的自衛権を行使できる状態にして中国を包囲し、東シナ海や南シナ海で中国軍を牽制する。こうした経済、軍事両面で対中国戦略の展開のためには、日韓両国を従属させることが絶対条件なのだ。

今回の合意を受けて安倍首相は「日韓の新時代を迎える」と述べた。「新時代」とは、日韓がアメリカの要請に応じて共同して集団的自衛行動をとることを意味することはいうまでもない。当面は、日米間共同軍事演習が常態化されるだろう。

もう一つの注目点は韓国がTPPに加わるかどうか、である。恐らく、韓国側に加入を求める動きが加速されるだろう。韓国経済界としは、TPP参加のメリットは小さいが、アメリカの意向をのまざるを得ない、との判断に立つ可能性は高い。

今回の合意によって、アメリカの中国包囲網はほぼ形成されたことになる。それがかえって新たな緊張を生むことになる。安倍首相は、慰安婦問題について「次世代に引きつがなない」という。ならば、集団的自衛権という戦争の芽こそ次世代のために、今のうちに摘み取らなければならない。