◆現代時評《言論封殺の意見広告》: 井上脩身

TBSテレビの報道番組「NEWS23」で、アンカーを務める岸井成格氏が安保法制について「メディアとしても廃案に向けて声を上げるべきだと思う」と述べたことに対し、「放送法遵法を守る視聴者の会」の名前で11月14日と15日に産経新聞と読売新聞に、「放送法に違反する」との意見広告が出された。集団的自衛権が行使できる安保法制を強行採決して成立させるなど、安倍晋三首相が好き放題に暴走した年である。その背景に、正当な言論を封殺する「右傾言論」があることを見落としてはならない。「体制翼賛言論」への悪しき道へと進んでいる現実を象徴する意見広告であった。

焦点となった番組は安保関連法案の審議が参議院で大詰めを迎えていた9月16日に放映された。岸井氏は、日曜日の午前に放映される「サンデーモーニング」でも、「安保法案は自衛隊が海外で戦争できる法案。メディアとして、廃案に持ち込ませねばならない」といった意味の発言を繰り返していた。メディア界に身を置く者としての持論を述べたのだ。

この発言をやり玉に挙げたのが作曲家のすぎやまこうへい氏が代表呼びかけ人である「視聴者の会」である。11月30日付毎日新聞によると、意見広告は「一般視聴者は、ある一局の報道番組全体を見ることはできない。一つの報道番組で公平性や多様な意見の紹介に努めるのは放送事業者の当然の責務」としたうえで、岸井発言は放送法4条の「政治的公平」に反している、と主張。すぎやま氏は11月26日に記者会見し「片方の意見のみに偏った報道姿勢」と批判した。

放送法4条は放送事業者に対し、放送番組の編集にあたって①公安及び善良な風俗を害しないこと②政治的に公平であること③報道は事実にまげないですること④意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること――の4点を求めている。

すぎやま氏らは、同法の表面上の文言だけを根拠に岸井氏の発言を「違法」と決め付けたのである。

言うまでもなくわが国の最高法規は憲法である。その第21条には「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」と規定している。放送番組における発言も憲法に保障されている言論であることは論を待たない。その意味では、放送法自体が憲法違反である疑いが濃厚だ。しかしここでは一応、その存在を認めて論を進める。同法4条の「政治的公平」の規定は、あくまで言論の自由を前提とした上での規制でなければならない。したがって、番組の出演者の発言が制約を受けるのは、テロを煽る表現などのような、憲法上認められない発言に限られる、と考えるべきであろう。

そもそも安保法については、多くの憲法学者が「憲法違反」と指摘した法制である。岸井氏は「憲法違反はメディアとして許されない」と、当然のことを述べたに過ぎない。だが、すぎやま氏らは、安倍政権の方針に反対する意見がテレビで公然と語られることに危機感を覚えたのであろう。それは「安倍政治に異を唱える者は許さない」という、権力者へのすり寄り姿勢の裏返しでもある。

問題なのは、この権力すり寄り体質がマスコミ界にも及んでいることだ。「意見広告」が産経新聞と読売新聞に出たことは、その現れである。産経新聞は歴史修正主義路線をとり、読売新聞は「憲法改正」を社論にしている。それは右派政治家である安倍首相の歴史観、憲法観と基軸が一致しており、両新聞社は、安倍政権の憲法違反政治を事実上後押しした形だ。

先の大戦に際し、新聞が体制翼賛体制に組み込まれて、こぞって戦争熱を煽り、その挙げ句、300万人もの生命が失われることになった。その反省に立って、戦後、権力への監視をマスメディアの責務としてきた。国民の生命を危険にさらす恐れのある政治に厳しくメスをいれて、その暴走を食い止めようとすることは、言論機関としての第一の義務なのである。

しかし、その責務を放棄し、率先して安倍政治を賛助報道する新聞社が大手を振ったのが2015年である。このままこうした新聞がのさばれば、「安倍政治反対者は非国民」といった意見広告が出てくることが懸念される。

来年が「体制翼賛元年」になることを私は恐れる。

編集部注:放送法第4条
(国内放送等の放送番組の編集等)
第四条  放送事業者は、国内放送及び内外放送(以下「国内放送等」という。)の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。

 公安及び善良な風俗を害しないこと。
 政治的に公平であること。
 報道は事実をまげないですること。
 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。
 放送事業者は、テレビジョン放送による国内放送等の放送番組の編集に当たつては、静止し、又は移動する事物の瞬間的影像を視覚障害者に対して説明するた めの音声その他の音響を聴くことができる放送番組及び音声その他の音響を聴覚障害者に対して説明するための文字又は図形を見ることができる放送番組をでき る限り多く設けるようにしなければならない。