現代時評《日韓首脳会談の背景》:井上脩身

安倍晋三首相と朴槿恵大統領との初の日韓首脳会談が2日、ソウルの青瓦台(大統領府)で行われ、慰安婦問題について「早期の妥結」に向けて動き出すことになった。安倍首相が戦後70年首相談話で女性の尊厳について言及したことに朴大統領が応えたもので、互いに一致点を探ることになった。だが、この裏に中国問題があることを見落としてはならない。安倍首相の狙いが「中国封じ込め」であるのに対し、「韓日・韓中等距離外交」に軸足を置く朴大統領は、歴史認識問題については中国と共同歩調をとっている。歴史修正主義者に近い安倍首相が歴史認識問題にどう向き合うのか。東アジア外交の正念場である。

安倍首相の外交・防衛政策はアーミテージ元米国務長官の「アーミテージレポート」を下敷きにしていることは、本欄でも再三取り上げた。同レポートは、アメリカの同盟国である日本と韓国が歴史認識問題で対立していることはアジア戦略上マイナスとの立場から、「慰安婦像を建てないよう働きかける日本政府の政治的動きは(韓国側の)感情を刺激する」と指摘、慰安婦問題に向き合うよう求めた。

安倍首相は戦後70年の首相談話で「戦場の陰には、深く名誉と尊厳を傷つけられた女性たちがいたことを忘れてはならない」「20世紀において、戦時下、多くの女性たちの尊厳や名誉を深く傷つけられた過去をこの胸に刻む」と、2度にわたって傷つけられた女性の尊厳に言及した。「傷つけられた女性」が従軍慰安婦を指すことはいうまでもない。

慰安婦問題を突出させた談話は、アーミテージ提言を受けたうえでの朴大統領への「日韓関係強化」へのメッセージであることは明らかだった。

朴大統領はしたたかだった。中国側に働きかけ、日中韓3か国首脳会談の実現にこぎつけた。安倍首相の「中国封じ込め」には乗らなかったのである。安倍首相としては目論み外れだろうが、「東アジアの安定」という大義に逆らえるはずはなかった。

安倍首相、朴大統領に中国の李克強首相が加わった首脳会談では、「歴史を直視する」との文言を盛り込んだ共同宣言を採択した。朴大統領のペースでことが進んだ、といえた。

こうした経過を踏まえて日韓首脳会談が行われたのである。朴大統領は慰安婦問題について「両国の関係改善の最も大きな障害になっている。被害者に受け入れられ、わが国民が納得しうる水準で早く解決しなければならない」と強調。「早期の妥結を目指す」ことで両首脳は一致。両国外務省の局長級協議を加速させることとした。

「早期」について朴大統領は「年内」と毎日新聞の書面質問に答えている。

従軍慰安婦問題については1993年、河野洋平官房長官(当時)が「慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した」との談話を発表している。朴大統領は河野談話に基づいて、「公式謝罪」を求めると思われる。

一方、安倍首相は政権復帰前の2012年、「河野談話の見直し」を主張した。安倍首相の本心は「河野談話否定」である。「アーミテージがいうから仕方なく、慰安婦問題で折り合う」という姿勢では、韓国側の反発を招くだけでなく、中国側からも「歴史を直視していない」として強く非難されることとなろう。

アーミテージレポートはアメリカの国益を守る立場からの日本への提言である。安倍首相が同レポートの優等生である限り、日韓、日中関係を軸にした東アジア各国の自立的な平和の構築を期待することはできない。